大成建設がダム建設現場周辺の生物の生息状況を見える化する手法を開発:産業動向
大成建設は2018年6月18日〜11月19日、魚道が設置されたダム建設現場周辺の河川で、生物由来のDNA分析技術を用いて、川を遡上するサクラマスの調査を計12回実施し、DNA分析技術を用いたリサーチ手法の効果を分析した。
大成建設は、水や土などに含まれる生物由来のDNA分析技術を用いて、ダム建設現場周辺の河川を遡上する魚類を調査する方法を開発し、有効性を確認したことを2020年10月26日に発表した。
遡上開始から産卵を経て死滅するまでの生息状況を経時的にモニタリング
建設工事では、周辺住民の生活や動植物、生態系などへの影響を踏まえて、環境に配慮した計画や設計、施工をする必要がある。
生態系への取り組みでは、あらかじめ生物のモニタリング調査を実施し、生息する生物の種類や個体数、分布、行動期間、パターンなどを経時的に把握した上で、適切に対応しなければならない。生物が広範囲に移動する湖沼や河川、海洋などの水域では、潜水目視観察と捕獲によるリサーチがこれまで主流になっている。
しかし、多くの建設会社では、捕獲に伴う生態系への影響や調査員の労力、コストなどの問題から、数地点でのモニタリングを1年当たり数回行うのが限界で、調査の効率や情報量に問題があった。
そこで大成建設は、生物由来のDNAを分析し、特定のエリアに生息する生物の種類や生物量などの情報を得る「環境DNA分析技術」の現場適用に向けた取り組みを進めている。この一環として、河川を遡上する「サクラマス」を対象に、環境DNA分析技術を活用したモニタリング調査を行った。結果、河川からの採水で得られるDNAを使った分析で、サクラマスの存否を確認するだけでなく、経時的な生息状況を捉えることに成功した。
具体的には、現地での採水に基づくDNA分析から、目視調査による魚の遡上に関する実測値の変動パターンとDNA量の変動状況を関連付けることを実現し、サクラマスの遡上開始から産卵を経て死滅するまでの生息状況を経時的にモニタリングすることを可能にした。
今回開発した調査技術により、工事現場周辺の河川を広範囲かつ高頻度に採水し、DNA分析を行うことで、生息する生物の有無や種類の確認、産卵から死滅までの分布が推定できるようになる。また、複数の地点で頻繁に採水するだけでDNA分析が可能となるため、モニタリング調査の効率化を図れる。さらに、生息環境に配慮した建設工事の施工計画立案に、DNA分析を取り入れることで、より多くの生物情報を集積し、工事の計画で生かせる。
今後、大成建設は、新技術でモニタリング可能な生物の種類を増やし、湖沼や河川、海洋などの水域で、広く適用できる生物環境モニタリング技術としてアップデートしていく。
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