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住友林業が「W350計画」で目指す“環境木化都市”と実現に必要な木化技術とは?高さ350mの木造超高層ビルの構想(1/3 ページ)

住友林業が展開するビジネスの根源には、植林・育林の技術にある。同社が掲げる「W350計画」は、この技術をさらに前進させ、“環境木化都市”の実現を目指す研究開発構想だ。気候変動の抑制に向けた建築時の総排出CO2「エンボディド・カーボン」の減少を目標とし、同社では「MOCCA(木化)」事業を進めている。MOCCAでは、木材を使って耐久性が高く快適な建築空間を実現すべく、耐火部材の開発やゲノム選抜育種などに取り組んでいる。

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 住友林業は、1691年(元禄4年)に愛媛県新居浜市の別子銅山で、銅採掘のための備林経営から事業を開始した。現在に至るまでの長い社業の過程では、山を荒廃させたこともあったという。同社ではこの経験を教訓とし、1894年から大造林計画をスタートさせた。住友林業の育林・植林に関する技術の蓄積は、ここから始まっている。

 住友林業では、創業から350周年となる2041年を目標に、高さ350メートルの木造超高層ビルを実現する「W350計画」を発表している。マンションビジネスに特化した専門展示会「住宅ビジネスフェア/非住宅 建築フェア/マンションビジネス総合展 オンライン」(会期:2020年10月26〜30日)の特別講演で、住友林業 理事/筑波研究所長の中嶋一郎氏が、「街を森にかえる<環境木化都市>を目指して W350計画」と題し、W350計画の概要と関連技術を紹介した。


住友林業 理事/筑波研究所長の中嶋一郎氏

2041年に350mの木造ビルを建てる手法、バックキャスティング方式で明確化

 住友林業の「W350計画」は、木造で350メートルのビルを建てて収益を得る事業計画ではない。「木の価値を高める技術において世界一の存在を目指す」という同社のビジョンを明確にし、誰にでも分かりやすい施策としてまとめた研究開発構想が「W350計画」だ。


創業350年の2041年に向けての目標は、「木の価値を高める技術において世界一の存在を目指す」こと

 現代は建築物を含め、石油由来の無機質な材料が占めている。登壇した住友林業 理事であり筑波研究所長の中嶋一郎氏は「これを一概に否定することはない。それはそれで非常に大事な素材」としながらも、石油由来の材料から離れ「その街を再生可能な木に置き換えていくことで、より新しい住まいの在り方、あるいは暮らし方ができるのではないか」と提言。

 中嶋氏は「地上350メートルは、里山に匹敵する高さ。住友林業の多くのグループ会社と連携し、緑を生かしたランドスケープを考慮した木造建築を増やしていきたい」と展望を語った。

 高さ350メートルという数字が独り歩きしている感があるW350計画だが、実は住友林業には、このような高層建築に関する知見はなかったとのことだ。そこで、世界的にも高い設計力を持つ日建設計と手を組み、プロジェクトの具現化を進めた。

 そこで用いられたのが、いわゆるバックキャスティング方式を用いたデザインモデルだ。これは、2041年に建築したいビルの内容を明確にし、それに向けて今何をすべきかを逆算していく手法。その手法を落とし込んだものが技術モデルだが、デザインモデルと技術モデルの間には、当然ながら多くの課題が存在する。


デザインモデルを技術モデルに落とし込む

 中嶋氏は、全てを木で作ろうとはしていないと話す。設計は適材適所とし、必要な箇所には鋼材を使う。例えば、地震の揺れを緩和する制震ブレースには鋼材を用い、それ以外の箇所は、可能な限り純粋な木材とする。このような内容で、応力変形解析のシミュレーションを行い、構造の安全性も検証している。


適材適所で強度を確保する。応力変形解析で安全性を確認
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