高砂熱学の全てのライン管理職が参加 本気の「BIMマネジメント講習」:日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ(15)(3/3 ページ)
高砂熱学工業では早くからBIMに取り組み、その活用範囲を着実に拡大してきた。しかし、BIMの真価を発揮するためには、担当者レベルの取り組みだけでは不十分だと考えた。BIMや情報マネジメントは設計・施工プロセスそのものを改革するもので、その実現には管理職の理解と主体的な関与が欠かせない。そこで、BIM活用をさらに一段高いレベルへ引き上げるべく、全ての設計・施工部門の管理職(課長職以上)を対象とした「BIMマネジメント講習」を実施した。
管理職向けBIMマネジメント講習の成果
講習終了後のアンケートでは、参加者から高評価を得られた。講習の満足度については「良かった/とても良かった」という意見が70%を超えた。中でも最もうれしかったのは、「講習内容が実務に生かせますか?」という問いに対し、73%の方が「実務に生かせる」と答えていたことだ。半日の長い講習で、設計・施工の多くの管理職が、実務に活用できると実感したことは、高砂熱学工業の今後のBIM推進で重要なことだと感じた。
アンケートではBIMの知識や技術を学んだという感想以上に、「管理職自身が意識を変え、BIMマネジメントを実践していく必要性を認識した」という感想も多く見られた。また、その学びを組織へ水平展開しようとする姿勢、管理職自らが率先してBIMを活用しなければ組織には定着しないという認識も共有されており、本講習が単なる知識習得ではなく、意識改革につながったことがうかがえた。
このように、ライン管理職自身がBIMや情報マネジメントの必要性を理解し、自らの課題として受け止めたことは、今後のBIM推進や情報マネジメントの定着に向けた大きな原動力になるだろう。また、各地区の管理職が演習を通じたディスカッションの中で、自らの言葉で課題や解決策を議論したことも、理解を深めるだけでなく、組織全体へBIMや情報マネジメントを浸透させていくための重要な第一歩になったと感じている。
アンケートの中で、特に印象的だったのは次のような声だ。
- 「今回の講習で学んだことを各メンバーにも水平展開します」
- 「管理職が、意識を変えて取り組む必要があると改めて感じました」
- 「BIMを使用するという意識がないと広まらないことはよく分かりました。使うようにします」
- 「BIMに対する意識改革となり非常に良かった」
関係者の皆様からのコメント
管理職向けBIMマネジメント講習について、高砂熱学工業の関係者と講習を共に実施した応用技術 代表取締役社長 小西貴裕氏からコメントを頂戴しているので、この場で紹介したい。
高砂熱学工業 本社 デジタルコンストラクション戦略統括部長 藤村慎司氏
今回のBIMマネジメント講習は、当社がBIMの取り組みを「展開・拡大」から「定着・活用」へ進めるとともに、BIMを核とした業務プロセスの改革を次のステージへ発展させる重要な転換点となりました。BIMは単にモデルを作成するための技術ではなく、設計・施工・維持管理に関わる情報をつなぎ、プロジェクト全体を最適化していくためのデータ基盤と考えています。その実現には、BIM推進部門や担当者だけでなく、各プロジェクトをマネジメントする管理職が、BIMや情報マネジメントの意義を理解し、BIMコーディネーターや関係者と連携しながら主体的に取り組むことが不可欠です。
今回の講習を通じて、管理職一人ひとりがBIMを業務改革の手段として捉え、各部門や各現場での具体的な活用につなげていくことを期待しています。今後もBIMを核とした情報マネジメントの実践を進め、BIMデータを軸としたプロジェクト全体最適化を目指すとともに、生産性向上、品質向上、そして顧客への提供価値向上に取り組んでまいります。
高砂熱学工業 本社 デジタルコンストラクションマネジメント部 担当課長 村越明徳氏
BIM推進室では、これまでBIMの導入拡大に向けて、標準整備、教育、各本支店との連携体制づくりを進めてきました。一方で、BIMを本当の意味で定着させるためには、モデルを作ること自体を目的にせず、プロジェクトの中で「何のためにBIMを使うのか」「どの情報をどのように活用するのか」を明確にする必要があると感じていました。
今回の講習では、BIMを現場担当者やBIM推進部門だけの取り組みではなく、プロジェクト運営に関わるマネジメントのテーマとして、管理職の方々に考えていただきました。演習やディスカッションを通じて、各部門や各本支店の実務課題とBIM活用を結び付けて議論できたことは、今後の定着に向けた大きな一歩だと感じています。
最後に、本講習の企画段階から当社の課題意識を深く汲み取り、講習内容の構成、演習設計、当日の進行まで多大なご支援をいただいたBIMプロセスイノベーションの伊藤様、応用技術の小西様に、心より感謝申し上げます。
応用技術 代表取締役社長 小西貴裕氏
このたび、高砂熱学工業様が全ての設計・施工部門の管理職を対象に実施された「BIMマネジメント講習」を、パートナーとして共に形にできたことを大変光栄に思っております。多くの企業のBIM教育が、ソフトウェアやツールの操作方法(RevitやFormaなど)の習得に留まりがちな中、高砂熱学工業様からの依頼は、それとは一線を画すものでした。BIMは単なる3Dモデルの作成ツールではなく、人と情報、そしてプロセスをつなぐ「情報マネジメント(IM)」の基盤です。今回、高砂熱学工業様が管理職の役割を「使う側」ではなく「マネジメントする側」と定義し、その意識改革に挑まれたことは、業界のロールモデルとなる大きな一歩と考えております。今後、本講習会での気付きが実際のプロジェクトで実践され、大きな成果へと結実していくように、全力でサポートし続けてまいります。
BIMからIMへの転換を目指す、高砂熱学工業のBIMマネジメント講習
今回の講習を通じて再確認したのは、BIM普及の最大の壁は、ソフトウェアや技術そのものではなく、「どのように業務に活用し、組織として定着させるか」だ。
多くの企業では、BIM推進部門や担当者が中心となってBIMの導入や展開を進めている。しかし、BIMによる成果を最大化するためには、個々の担当者の努力だけでは限界がある。なぜなら、BIMは単なるモデリング技術ではなく、設計・施工プロセスそのものを変革する取り組みだからだ。業務プロセスを変え、組織を動かし、成果に責任を持つのは各プロジェクトの管理職の役割だ。
一方で、管理職の多くは、BIMソフトウェアを直接操作する立場ではない。そのため、BIMを自分自身の課題として捉えられず、担当者任せになってしまうケースも少なくない。しかし、本来管理職に求められるのは、ソフトウェアの操作技術ではなく、BIMや情報マネジメントを活用して、どのように業務改革を実現するかを考え、実践することにある。
高砂熱学工業が実施したBIMマネジメント講習は、まさにそのための取り組みだった。設計・施工部門の管理職一人ひとりが、プロジェクトのBIMマネジメント(全ての情報の計画・管理・活用)を担うことは、これからのBIM推進で不可欠だ。
今後の課題は、講習で得た気付きや意識変革を、プロジェクトの中でどのように実践していくかにある。重要なのは管理職自身が、情報生産の計画と管理を担い、BIMコーディネーターや担当者と連携しながら、プロジェクトで情報マネジメントをしていくことだ。
高砂熱学工業の取り組みは、BIM活用の高度化を目指すだけでなく、情報マネジメントを中心とした業務改革へと向かう先進的な事例といえる。BIM担当者がBIMを推進する時代から、管理職が情報マネジメントを実践する時代へ。その変化は、これからの建設業界に求められる新たな方向性を示しているのではないだろうか。
※本稿の執筆にあたり、多大なるご協力をいただいた高砂熱学工業ならびに応用技術の皆様に心より感謝申し上げます。
著者Profile
伊藤 久晴/Hisaharu Ito
BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。
近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。
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