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都市の3D化とAI連携で進化するGIS【土木×AI第38回】 “土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(38)(2/2 ページ)

建設業界では、現実の工事現場などを仮想空間に再現する“デジタルツイン”が浸透しつつあります。その基盤となるデータの1つが「地理情報」です。1970年代に国土地理院がコンピュータの地図=GISを導入した後、阪神・淡路大震災の復旧活動で有効性が認識されたことを機に急速な発展を遂げました。現在では、国交省が整備した3D都市モデルのオープンデータ「PLATEAU」に準じ、地方自治体でも3Dモデル化が進み、都市計画をはじめ、防災、観光、モビリティーなど、もはや社会インフラツールとして分野を超えた利活用が始まっています。

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土砂災害を機械学習で予測、水害シミュレーションにも活用

 土砂災害では、平時のリスク把握や事前対策、災害発生後の迅速な対応などには、土砂崩壊箇所の予測が有効です。文献7では、現場調査しなくても全国どこでも入手可能な公開データ(標高、傾斜、土壌、植生、災害履歴など)を使用して、機械学習による予測を試みており※7、このような分析にもGISが役立ちます。

土砂崩壊箇所の機械学習による予測
土砂崩壊箇所の機械学習による予測 出典:※7

※7 「公開データと機械学習を用いた豪雨による土砂崩壊箇所の汎用的な予測モデル構築」中川明紀,伊藤陽/AI・データサイエンス論文集6巻3号p829-838/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2025年

 シミュレーション予測にGISを活用する事例も増えています。水害シミュレーションの精度を高めるには、流体の摩擦抵抗の設定根拠となる詳細な土地利用データが求められます。文献8では、深層学習を用いた画像認識「セマンティックセグメンテーション」を航空写真に適用して土地利用分類を推定し、津波シミュレーションに取り入れています※8。また、文献9ではGISによって、緑や沿道建物の道路空間の地表面温度への影響を分析し、ヒートアイランド対策として注目される街路樹などのグリーンインフラの効果を検討しています※9

※8 「航空写真を用いた深層学習に基づくデータ不均衡性を考慮した高解像度土地利用分類手法の構築と水害シミュレーションへの適用」羽物裕人,大川博史,樫山和男/AI・データサイエンス論文集6巻3号p348-358/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2025年

※9 「道路空間の地表面温度にみる緑と建物の影響−衛星リモートセンシングによる環境評価−」伊藤昴,郷右近英臣/AI・データサイエンス論文集6巻3号p56-63/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2025年

土木インフラに地理空間データを用いた例

 文献10では、橋梁(きょうりょう)が閉鎖された場合の社会的影響を検討するために、各種地理空間データを用いています※10。下図は、橋梁閉鎖時の迂(う)回路を算定して可視化したものです。

迂回路の計算結果
迂回路の計算結果 出典:※10

※10 「社会データと橋梁データを用いた北海道市町村の維持管理特性クラスタリング」新地捺未,福澤健人,長井宏平/AI・データサイエンス論文集6巻2号p159-172/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2025年

 文献11では、下図のように鉄道線路の安全性で重要となる軌道レールの変形や座屈を周辺環境のデータなどを用いて、予測するモデルを提案しています※11

鉄道線路の変形と座屈の発生予測
鉄道線路の変形と座屈の発生予測 出典:※11

※11 「GISデータを用いた鉄道線路の広域2次元FEMによるふく進と軌道座屈の発生予測法」浦川文寛,渡辺勉/AI・データサイエンス論文集5巻3号p84-94/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

3次元モデルで河川の状況を可視化

 3次元モデルの利用も進んでいます。文献12では、地物の3次元モデルに対して、河川情報を基に生成した水面を重ね合わせることで、リアルタイムに状況変化を反映するシステムを提案しています※12。文献13では同様の試みを農村地域の水路に適用し、3次元モデルと水位の組み合わせで、誰にでも把握できるように可視化できます※13

3次元モデルに水面を重ねたCGアニメーション(左上から右下へ遷移)
3次元モデルに水面を重ねたCGアニメーション(左上から右下へ遷移) 出典:※13

※12 「三次元表現を用いた河川流況可視化システムの開発に向けた技術調査と実装」後藤順太,井上和真,荒井日菜子,菊池静琉,木村清和/AI・データサイエンス論文集6巻1号p140-158/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2025年

※13 「農村地域の水路の水位と浸水深の3D表示に対応したアプリケーションの構築」吉永育生,福重雄大,皆川裕樹,桐博英/AI・データサイエンス論文集6巻1号p369-373/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2025年

 地理的な多種多様なデータを重ね合わせるGISは、計画から、設計、施工、維持管理、災害対応など、あらゆる場面に用いられています。各種情報は位置情報を併せ持つことで価値が高まるわけです。3次元モデルの普及に伴い、さらに高度で多様なユースケースが広がるものと期待されます。また、地理空間データをLLM(大規模言語モデル)と連携させる“MCP化”も始まり※14、AIの適用もより容易になりつつあります。

※14 国土交通省「「地理空間MCP Server - MLIT Geospatial MCP Server - (α版)」

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長を務めた後、現在はAI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長。インフラメンテナンス国民会議 実行委員も兼任。

近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)。

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