LLMのデータ言語化で進化する構造物点検 東大・全邦釘氏が提唱する「新時代のインフラマネジメント」:メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025(2/2 ページ)
社会インフラは年を追うごとに老朽化が進み、維持管理の重要性が増している。しかし、人口減少と技術者不足の中で、従来の人手に頼る点検体制には限界がみえ始めている。こうした課題に対し、AIとデータを活用した新たなアプローチを提示するのが、東京大学大学院 工学系研究科 附属総合研究機構 特任教授で、土木学会のAI・データサイエンス論文集編集小委員会 委員長を務める全邦釘氏だ。
設計からレポート作成まで、AIが変える業務プロセス
全氏の講演は、AIがインフラメンテナンスの単一のプロセスを自動化するだけでなく、業務プロセス全体を一貫して変革する可能性を示した。3Dモデル(点群データ)とLLM、あるいはLLMと各種アプリケーションを連携させることで、設計から解析、そしてレポート作成までをシームレスにつないで自動化する「MCP(Model Context Protocol)」という新しい概念も紹介した。
MCPの考え方に基づけば、AIはまずドローンなどで収集された点群データからインフラの3Dモデルを自動生成する。3Dモデルは、BIM/CIMデータや解析結果と連携し、構造健全性のシミュレーションを可能にする。LLMが各種情報を統合し、異常箇所を特定してその原因を推測し、最終的なレポートを自動で作成するまでが一連の流れとなる。
実現すれば、インフラメンテナンスは劇的に効率化する。人間は、AIが生成したレポートの最終確認やAIでは判断できない複雑な問題への対応など、より高度な知的作業に集中できる。限られた人材とリソースを最大限に活用し、インフラメンテナンスの質とスピードの両立が実現するわけだ。
AIとデータプラットフォームの進化は、インフラメンテナンスを単なる「事後対応」から「事前予測」へと変え、より安全で強靱な社会の構築に寄与する。全氏は「現在のLLMは高性能で、今後さらに進化していく。どのように付き合っていくかを考える必要がある」と語り、講演を締めくくった。
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