90キロ離れた建機の遠隔操縦に成功、マルチリンク通信を活用 大成建設:i-Construction 2.0
大成建設は、複数のLTE回線と衛星通信を同時に活用する「マルチリンク通信」を利用して、直線距離で約90キロ離れた建設現場の複数台の建設機械を遠隔操縦することに成功した。
大成建設は2025年9月18日、群馬県藤岡市の下久保ダム上流域で、直線距離で約90キロ離れた神奈川県横浜市戸塚区の大成建設技術センターから複数の建設機械を遠隔操縦し、堆砂処理作業を行う実証に成功したと発表した。
この取り組みは、内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「スマートインフラマネジメントシステムの構築」のサブ課題A「革新的な建設生産プロセスの構築の一環として実施。SIP事業では、就業者が転勤や長時間通勤をせずに所属オフィスなどから建設作業に従事できる環境の構築を目的として、「省人化システム」を開発した。システムには、複数のLTE回線と衛星通信を同時に活用するマルチリンク方式を採用。ソリトンシステムズ製の遠隔操縦向け映像通信システム「Zaoシリーズ」を導入している。
実証は2025年9月1〜4日の期間に実施。電波環境が不安定なダム上流域の河床部でも、油圧ショベルとクローラ型ダンプトラックを安定的に遠隔操作できた。また、大成建設開発の現場管理システム「T-iDigital Field」のデジタルツイン技術を活用し、建機の配置や稼働状況をリアルタイムで可視化。メンテナンス作業員と建機との距離を常時監視することで、安全性を確保しながら効率的な作業を実現した。
大成建設ではSIP事業とは別に、自社土木工事現場でも建機の超遠隔操縦を実施している。2025年5月には東京都大田区発注の「呑川合流改善貯留施設立坑設置工事」で、約230キロ離れた愛知県豊川市からケーソンショベルの遠隔操作を実施。2025年8月には国土交通省中国地方整備局発注の「玉島笠岡道路浜中地区東工区改良工事」において、約300キロ離れた福岡県福岡市南区から油圧ショベルとクローラ型ダンプトラックの遠隔操縦に成功している。これらの取り組みにより、建機の超遠隔操縦に対する有効性が確認された。
今後はSIP事業を通じて関係各署と連携し、マルチリンク通信を使用した建機の遠隔操縦技術による省人化システムの試行を継続し、社会実装を目指す。
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