検索
連載

StarlinkやLPWAなど建設DXに欠かせない“通信環境”【土木×ICTのBack To The Basic Vol.3】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(31)(2/2 ページ)

遠隔臨場をはじめ、遠方とのコミュニケーション、建機や人の位置情報、点検ドローン、巡回ロボットなどの活用で、今や建設現場で通信環境の確保は必須となっています。ここ数年は山間部のトンネル工事や電波が届かない不感地帯でStarlinkの導入が進み、建機の遠隔操作や現場状況を仮想空間にリアルタイムで再現するデジタルツインが実現しています。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

インフラ維持管理で有効な長距離/低消費電力の「LPWA」

 速度や消費電力、通信距離などそれぞれの方式に特徴があります。Wi-Fiは身近に皆さんも利用されることが多いでしょう。右上の「LPWA(Low Power Wide Area)」は、土木で対象とする都市や道路、河川など広域の監視を低コストで行う方法として注目されています※7。例えば構造物の劣化のモニタリング※8、道路の浸水検知※9、人流計測※10など多様な場面での利用が検討されています。

※7 「デジタルツインの拡充に向けた都市OSの広域化・サービス連携の検討」中川佳大,亀田敏弘/AI・データサイエンス論文集5巻1号p172-177/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

※8 「振動発電技術を用いた鋼材腐食モニタリングシステムの開発と応用展開」深田宰史,上野敏幸,木綿隆弘,北翔太,青山敏幸,山品剛,菅原保仁,阿部雅人/AI・データサイエンス論文集3巻J2号p438-445/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2022年

※9 「道路冠水深の予測への重回帰分析とニューラルネットワークの適用」小林亘/AI・データサイエンス論文集3巻J2号p661-667/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2022年

※10 「複数カメラ画像を用いた広域の歩行者移動軌跡計測システム開発研究」宇都宮優喬,北川照晃,田頭直樹,山脇正嗣,平松佑一,高橋富美,田中裕之/AI・データサイエンス論文集4巻3号p533-538/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 LPWAに限らず単一の通信方式では、全ての用途をカバーすることはできないため、各方式それぞれの特徴を生かし、状況やニーズに応じて適材適所で用いる必要があります。文献11では、下図のようにインフラ管理のためのデータ連携基盤が提案されていますが、単一の通信方式ではなく、各種の通信方式の連携を想定しています※11

データ連携基盤のイメージ
データ連携基盤のイメージ 出典:※11

※11 「インフラデータプラットフォームによるデジタルツインの実装と将来展望」土橋浩/AI・データサイエンス論文集4巻2号p1-12/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 能登半島地震では、通信サービスが利用できなくなった地域が多く発生したことから、米SpaceXの低軌道衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」が広く活用されました※12。従来の衛星通信は、切れ目なく通信を提供するために、高度3.6万キロの静止軌道上の衛星が用いられてきました。Starlinkは静止軌道よりはるかに近い高度550キロの低軌道に、数千に及ぶ多数の衛星を用いることで、通信の往復時間を短縮して高速通信を実現しています。

※12 総務省「令和6(2024)年版 情報通信白書/第I部 特集:令和6年能登半島地震における情報通信の状況」

 衛星通信サービスを利用することで、通常の通信が困難な山間の工事現場でのICT活用や災害対応の迅速化が期待されます。下図は、災害時に衛星通信と地上の通信を組み合わせて迅速に通信を展開するコンセプトです。災害現場でも、画像や3次元計測をはじめとしたデータを簡易に取得するシステムが用いられており※13,14、機動性の高い通信でクラウドと連携することで、効果的な災害時のICT活用が可能になるでしょう。※15

機動性の高い防災通信
機動性の高い防災通信 出典:※2

※13 「道路橋の震後点検におけるUAV や自撮り棒の活用方法に関する実践的研究」小林巧,吉谷薫,大住道生/AI・データサイエンス論文集5巻3号p272-285/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

※14 「道路橋の地震時緊急点検におけるデジタルツイン活用の可能性」片山直道,全邦釘/AI・データサイエンス論文集5巻3号p155-164/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

※15 「河道閉塞発災後の対応初動期を想定した3次元データプラットフォームの検討」島田徹,小林実和,永田直己,全邦釘,永谷圭司/AI・データサイエンス論文集/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/投稿中

 建設DXを推進するには通信の確保が前提となります。無線通信技術や衛星通信技術の発展や普及に伴い、山間部の工事現場や災害現場などでも、ますますDXが進むのではないでしょうか。

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長、インフラメンテナンス国民会議 実行委員を務める。

近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る