ロボットカーレースが転機となった「SLAM」は何がスゴイ?【土木×ICTのBack To The Basic Vol.2】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(29)(1/2 ページ)
自動運転やAGVをはじめ、建設業界でも運搬ロボやドローンなどの用途で使われている「SLAM」。Simultaneous(同時に起こる) and Localization(自己位置推定) Mapping(地図作成)の略で「位置推定と地図作成を同時に行う」を意味します。位置推定と地図作成を同時に行うとはどういうことでしょうか。今回は、米国防高等研究計画局のロボットカーレースで広く知られるようになったSLAM技術を改めて解説します。
2024年のノーベル賞は、物理学賞に「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にした基礎的な発見と発明」、化学賞に「コンピュータによるタンパク質の設計/タンパク質の構造予測」が選ばれ、まさにAI時代の到来を印象付けるものとなりました。物理学賞を受賞したトロント大学のGeoffrey E. Hinton(ジェフリー・ヒントン)氏は、2012年に従来をはるかに上回る性能の画像認識AIを提示し、今のAIブームのきっかけとなりました。化学賞のGoogle DeepMind Technologies CEO Demis Hassabis(デミス・ハサビス)氏は、2016年にトップ棋士に勝利したAIの開発でも知られており、直接の授賞理由以外にも今日のAI隆盛に大きな功績があります。
位置と地図を同時推定する「SLAM」の特徴とは?
10年前の2014年のノーベル生理学 医学賞に選ばれた「脳内の測位システムを構成する細胞の発見」では、特定の目印や自己位置に反応する細胞の存在が指摘されています。GNSSでは衛星を目印として測位していますが、動物でも周囲の目印から自己位置を推定していることが明らかとなりました。
★連載バックナンバー:
本連載では、土木学会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会で副委員長を務める阿部雅人氏が、AIと土木の最新研究をもとに、今後の課題や将来像について考えていきます。
GNSSの電波が入らないトンネルや屋内をはじめ、屋外でも電波が入りにくいところなどでは、どのように自己位置を推定すればよいのでしょうか。
衛星の代わりとなる目印となるものを設置できれば測位は可能です。文献1では、測量で使うトータルステーションでドローンの位置を測定しています。また、ビーコンを置いて目印とし、距離が遠くなるにつれて電波が弱くなることを利用した測位方法も利用されています※2。
※2 BUILT 建設現場を“可視化”する「センサー技術」の進化と建設テックへの道のり(3)「【第3回】RTK-GNSSが苦手な「屋内」の建設現場で有効な2種類の測位技術」
あらかじめ目印を設置するには手間や費用が掛かり、工事現場のように進捗に伴って形状が変わるため、特定の目印を定めるのが困難なケースもあります。そうした場合に用いられている方法が、「SLAM(Simultaneous location and mapping:位置と地図の同時推定)」※3です。目印の位置が分かれば、三角測量などで自らの位置が分かりますし、自らの位置が分かれば写真測量などによって目印の位置を求めることができます。目印位置と自己位置は鶏と卵のような関係です。
※3 “Simultaneous localization and mapping: part I"IEEE Journals & Magazine,IEEE Xplore- ScienceDirect
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