“現場DX”を実現するAI×デジタルツイン 熟練者の技能をモデル化などの最新論文【土木×AI第27回】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(27)(2/2 ページ)
今回は、建設現場のDXに欠かせないデジタルツインとAIの組み合わせを深掘りし、熟練者の技能をデジタルツインでモデル化やフィジカルとサイバーの両空間融合で最適な施工管理などの最新研究を採り上げます。
熟練者の技能をデジタルツインでモデル化
掘進機の圧入により非開削で地中に管渠(かんきょ)を構築する推進工法では、地盤変状の推定が主要な管理項目となりますが、その判断には熟練者の技能が求められます。文献5は、下図のように施工記録やモニタリングの情報に基づき、定量的に判断する意思決定モデルを、現場での実証を通して構築しています。
定量的に把握する意思決定モデルで、実際の施工現場をモニタリングした結果から対策要否をスコア化したのが下図です。地質図を併せて確認することで、地盤構成ごとの管理ポイントを把握しています。このようにデジタルツインの活用で、ベテラン技能者の暗黙知で属人化していた経験的な判断を定量化する試みが進められています。
鋼構造物の補修や補強は、既設部材に当て板などの新規部材を追加したり、部材の交換をしたりするケースが多く見られます。その際、既設部材の詳細な形状や寸法の把握、搬入や運搬、取り付けの施工を詳細に検討するための現況を踏まえた3次元化が求められます。従来、こうした検討は、構造と施工方法の両方の知識や経験に基づき、2次元の図面と既設部材の組み合わせから3次元の構造を想像して行っています。
文献6では、既設部材を目の前にして新規部材の設置状況を事前に確認できる「AR(Augmented Reality)」を現場に適用しています。
下図のようにゲルバー構造部の支承取替えのため、ジャッキで仮受する際の仮設材をその下の図のように現場でAR表示しています。取り合いや干渉、施工の詳細な検討が可能となります。
工事現場で施工データを集約し、利用者が可視化された情報を利用したり、デジタルツインによる工程管理や建機などを制御したりする研究も始まっています。文献7ではサイバー空間内にモデリングして、対象世界の最適制御を目指す「CPS(Cyber Physical System)」※8という概念を取り入れた「CPS 施工管理システム」を提案しています。
※8 「デジタルツインの概念と土木工学への応用」杉崎光一,全邦釘,阿部雅人/AI・データサイエンス論文集4巻2号p13-20/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年
下図のように、人や車両に取り付けたセンサーで取得した位置情報をデジタルツイン上に再現し、稼働する重機や車両、現場内で作業している人の位置を遠隔地からでもリアルタイムに把握することが実現します。現場の施工管理や安全管理への活用、実績情報に基づいた労務管理や支払いなどにも活用が期待されます。
今回は、工事現場のデジタルツインやDXの取り組みを紹介しました。例えば、文献2の高リスク行動を検知するAIを、文献7のデジタルツインを組み合わせれば、リアルタイムに安全性の評価が可能になります。このように現場DXには、デジタルツインやAIは欠かせない技術となるでしょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 第6回 建設・測量生産性向上展:洗浄機の「ケルヒャー」が建設現場向けに清掃ロボ! 大成建設が導入したそのスペックは?
家庭用や業務用の高圧洗浄機で知られるKarcherは、建設業界向けにも用途に応じた多種多様な清掃製品を展開している。2023年に発表した床洗浄ロボットは既に大成建設が導入を決め、薬品ではなく熱湯による除草システムは日本ロード・メンテナンスの道路清掃で使われているなど、現場で徐々に普及しつつある。 - 製品動向:土木工事のCO2排出量をスコープ3まで自動算出、清水建設とゴーレム
清水建設とゴーレムは、土木工事で発生するCO2排出量を積算データから自動算出するCO2排出量可視化プラットフォーム「Civil-CO2」を開発した。清水建設によると、土木分野でのサプライチェーン排出を含むCO2可視化ソリューションは国内初。 - スマートコンストラクション:残コンにCO2を固定化した合成炭酸カルシウム、土木建設材料に適用できるか 出光興産が適用試験
出光興産と日本コンクリート工業、灰孝小野田レミコンは共同で、コンクリートスラッジを利用して排ガス中のCO2を固定化した合成炭酸カルシウムの土木建設材料への適用に向けた試験を開始する。 - Japan Drone 2024:スマホとアンテナで建設現場をcm単位で点群データ化 国交省の要領にも準じた「PIX4Dcatch RTK」
膨大な「点」の集合体で構成される点群データは、測量や建築の手法を変革するポテンシャルを持っている。しかし、ファーストステップとなるデータ取得のハードルが高く、なかなか参入に踏み切れない建設会社は多い。ドローンを飛ばすには資格を持った操縦者が必要だし、まともに使えるまでのデータ処理にはオルソ化などの専門知識と高性能PCも必要だ。Pix4Dが提案する新しい測量方法「PIX4Dcatch RTK」は、そうした悩みを抱えるユーザーでもスマホで手軽に使える3D点群データ化のソリューションだ。 - 産業動向:狭小空間点検ドローンのLiberawareと新井組が業務提携、関西エリアでドローン事業拡大へ
狭小空間の点検に特化したドローン開発を手掛けるLiberawareは、関西エリアでのドローン事業拡大を目的に、関西を基盤に建築/土木事業を展開する新井組と業務提携する。新井組は新規事業としてドローンを活用した「調査/点検事業」に乗り出す。