液状化対策や地盤改良の脱炭素化 CO2排出量を6割削減する大林組ら3社開発のグラウト材:地盤改良
大林組は、大阪防水建設社、富士化学と、地盤改良や液状化対策の脱炭素化を実現するグラウト材「Infill Hard Geo」を開発した。コロイダルシリカを工場生産から天然由来に置き換えることで、製造時のCO2排出量を6割削減し、既に護岸耐震補強工事などで3件の導入実績がある。
大林組は、大阪防水建設社、富士化学と3社共同で、芝浦工業大学 教授 稲積真哉氏による指導のもと、グラウト材に使用されるコロイダルシリカを工場生産から天然由来のものに置き換え、製造時のCO2排出量を約60%削減する低炭素型地盤改良用グラウト材「Infill Hard Geo(インフィルハードジオ)」を開発したと2024年3月14日に公表した。
天然由来コロイダルシリカ使用で、製造時のCO2排出量を約6割削減
3社はこれまでに、地盤改良や液状化対策の脱炭素化を目的に、粒径100ナノメートル以下のコロイド状シリカ粒子を高濃度で含む水分散液の天然由来コロイダルシリカを使用し、低炭素型地盤改良用グラウト材の開発を進めてきた。
天然由来のコロイダルシリカは、地熱発電で利用する熱水中のシリカ粒子と不純物が結合し、個体(スケール)となったものを指す。発電設備の揚水用配管に付着して発電効率を妨ぐため、定期的に除去/回収されていた。回収したコロイダルシリカは、これまで化学製品や鋳物などに使われているが、さらなる用途拡大が期待されている。
地盤改良用グラウト材は、A液(水ガラス系材料/水)とB液(コロイダルシリカ/反応剤/水)を配合して製造。B液に含まれるコロイダルシリカを、工場生産から天然由来に置き換えることで、製造時のCO2排出量が約60%削減する。
具体的には、地盤改良対象の土量が1万立法メートルの場合、一般的な注入率によるグラウト材注入量は4050キロリットルで、製造時のCO2排出量は、従来製品で1308トン、Infill Hard Geoで563トンとなり、745トン(約60%)のCO2排出量削減が見込まれる。
Infill Hard Geoで改良した土の一軸圧縮強さは、28日後で0.20ニュートン毎立方ミリメートル(N/mm2)以上、300日後で0.30N/mm2以上と従来製品と同等の長期強度が確保できる。透水係数は1.0×10-9〜10-10メートル毎秒と十分な止水性を有し、pH試験、有害金属分析試験、生物急性毒性試験でも安全性に問題がないと確認している。また、コスト面でも、従来製品と同程度となっている。
Infill Hard Geoは、構造物やタンクなどの基礎の耐震補強、港湾や河川構造物の液状化対策で適用可能で、これまでに三重県の石油精製施設での護岸耐震補強工事など、3件の施工実績がある。今後は、施工を大阪防水建設社、製造/販売を富士化学の体制で外販も予定している。
大林組は低炭素型の地盤改良材として、建設発生土や汚泥の改質に適した「バイプロジオ L」、浅層改良用の「バイプロジオ C」、深層改良用の「クリーンクリートジオ」といったセメント系固化材も開発している。今後は、Infill Hard Geoも含めたラインアップで、さまざまな用途に対応した低炭素型地盤改良材の提案を積極的に行っていく。
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