2050年の“ゼロカーボン”達成に向け、国交省が提言する住宅の断熱と国産木材の利用:第7回 ジャパンビルド−建築の先端技術展−(2/2 ページ)
2050年までに温室効果ガス排出をゼロにする政府の宣言は、生活のあらゆる場面に大きな影響を与えている。建設関連では、CO2排出量に占める比率が高いオフィスビルや住宅で、消費エネルギーをいかに減らすかが大きなテーマとなっている。
既存住宅のストックをどう改善するか?
基準適合は新築だけの課題ではなく、既存住宅のストックも対象となる。特に日本の住宅では、約5000万戸あるストック物件のうち、省エネ基準に適合しているものは13%ほどしかない。石坂氏は、2050年にカーボンニュートラルを達成するには、「ストックをどう改善するかが大きな課題」と語る。特に、ストックの中には無断熱の物件も3割ほどある。昭和55年(1980年)早見表基準の低い基準の物件も多く、どう更新するかが重要となってくる。
こうした物件は、省エネの他、耐震基準でも貧弱で、石坂氏は、これらの物件に対しては建て替える必要があるとの考えを示した。
c ZEH住宅は、断熱化、省エネ設備、太陽光などの創エネによって住宅全体としてのエネルギーをゼロ以下にする。ここで重要になるのが断熱だ。ストック物件でも、高断熱であれば設備はその後から入れ替えが可能になる。
ただ、断熱改修には多額の費用が必要となるため、石坂氏は浴室や脱衣所まわり、トイレといった部分からの導入を提案。
断熱には、窓の交換が有効で、アルミサッシと1枚のガラスからなる既存の窓をペアガラス/トリプルガラスを使った樹脂サッシに交換すると、部屋の断熱性能がアップできる。
住宅の断熱に関しては、利用できる補助事業も用意されている。国交省が経産省や環境省の協力を得て行う支援制度、子育て世帯を対象とした「こどもエコすまい支援事業」「住宅トップランナー制度」などがある。
融資や補助金は、2025年に向けて段階的に強化していく。また、住宅トップランナー制度では、これまで対象ではなかった分譲マンションが対象となるなど、対象範囲を拡充していく方針も示している。
国産の木材でビルを作る
建設時の木材活用もゼロカーボンへの寄与が期待できる。石坂氏は、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市の木造化推進法)」の対象が公共建築物から建築物一般に拡大されたと紹介した。
木は、成長の過程でCO2を吸収するが、ある程度まで成長するとCO2を取り込まなくなる。このような木材を建築に使うことで、CO2を固定(貯蔵)しようとするのがこの法律だ。
木を使った建設は、これまで戸建て住宅を中心に行われてきた。近年では、技術の進化により、より大型、より高い建築でも木材の利用が可能になった。これにはCLT(Cross Laminated Timber/JASでは直交集成板)の活用が期待されている。
木造建築では、既にCLTを使った10階建ての共同住宅など、多くのビルが建設されている。国土交通省でも「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」や「優良木造建築物等整備推進事業」といった施策によって、中大規模の木造建築物を支援している。
この他、講演では「地域型住宅グリーン化事業」「木造住宅・都市木造建築物における生産体制整備事業」などにも触れた。前者は中小の工務店が木造で省エネ性能に優れた住宅(ZEHなど)を作る際に支援を行うもの、後者は現場で工事を行う大工技能者の育成に関する支援事業だ。
木造住宅は、建設に関して割高になることもある。しかし、固定資産税や減価償却、あるいは工期が短くて済むなどメリットも多い。石坂氏は、「いろいろな仕組みの中で、CLTの標準化が進んでコストが下がれば、もっと利用が広がるではないか。カーボンニュートラルの取り組みも、企業のPRに使うこともあり得る」と期待を寄せる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(7):【日本列島BIM改革論:第7回】BIMで建設業界の“情報セキュリティ”と“安全衛生”を解決せよ
建設業界は、BIMという新しい技術とプロセスを得て、急速な進化の時期を迎えている。日本の建設業界は保守的で、進化スピードは海外に比べてとても遅く、すぐに大きな変化を産むことは難しいが、いずれは確実に発展してゆくことは間違いない。BIMは単に設計・施工を効率化するためだけのものではない。BIMを軸としたプロセスをベースに、建設業が抱える重要課題を解決していかねばならない。その重要課題とは、「情報セキュリティ」と「安全衛生」であり、その方向にもBIMは発展してゆかねばならない。この2大リスクがBIMによって低減されることで、建設業界で、BIMの価値はより高まるはずだ。今回はこのBIMによる情報セキュリティと安全衛生について考察してゆきたい。 - i-Construction:西松建設が建機に「水素アシスト技術」を導入 燃費向上やディーゼルエンジンの長寿命化を実証
西松建設は、建設機械のCO2削減に向け、米スタートアップ企業のHOD Tecの水素アシスト技術を導入する。 - カーボンニュートラル:建設用3Dプリンティングに適用できる新たな環境配慮コンクリート、大成建設
大成建設は、建設用3Dプリンティングに適用可能な環境配慮コンクリートを国内で初めて開発した。今回の技術で製作した建設部材は、コンクリートの性能を確保しつつ、複雑で多彩なデザインと機能を持ちながら、CO2排出量削減を実現。また、こういった部材を2022年度中に大成建設グループ企業が保有する大成ユーレック川越工場のリニューアル工事に実適用する。 - カーボンニュートラル:建設業向けCO2排出量計測管理サービスの開発に着手、大成建設とリバスタ
大成建設は、リバスタとともに、既存のCO2排出量計測管理に関するノウハウと豊富な現場データを活用した「建設現場で発生するCO2排出量の計測管理サービス」の開発に着手した。今後、両社は、CO2排出量管理サービスの開発を行い、大成建設の建設現場への導入と評価を経て、リバスタから製品として販売し、業界に広く展開するとともに、継続して当該サービスの機能強化を進めていく予定だ。 - カーボンニュートラル:カーボンリサイクル・コンクリートを用いた根固めブロックの現場実証を開始、大成建設
大成建設は、日建工学とともに、国土交通省関東地方整備局の現場ニーズに対して、同社と日建工学の技術シーズをマッチングさせた「カーボンリサイクル・コンクリートを用いた根固めブロック」を製造した。今後、両社は、コンクリートブロック製造時の工程、品質、安全性といった評価、備蓄、供用時のCO2吸収量を評価するとともに、実現場への適用や展示会などへの参加を通して、多様な事業でCO2削減活動の普及促進と啓蒙に努めていく。 - カーボンニュートラル:「T-eConcrete/Carbon-Recycle」に製紙工程で生じる炭酸カルシウムを活用、大成建設
大成建設は、CO2排出量削減に貢献する独自コンクリート技術「T-eConcrete」のうち、カーボンネガティブを実現するカーボンリサイクル・コンクリート「T-eConcrete/Carbon-Recycle」で、製紙工程で生じる炭酸カルシウムを原料として活用する研究と実証を進めている。 - 産業動向:東急建設が賃貸不動産の新ブランド「TQ」新設、ゼネコンオーナーの安心と信頼を提供
東急建設は、「TOP QUALITY すべての空間に、イノベーションを。」をコンセプトとする新たな賃貸不動産のブランド「TQ(ティーキュー)」を立ち上げた。