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DXの情報基盤となる“構造化データ”がなぜ必須なのか?【日本列島BIM改革論:第4回】日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(4)(3/3 ページ)

これまで「日本列島BIM改革論」の連載では、日本のBIMの危機構造とは何かについて述べてきた。危機構造から脱却し、建設DXへ向かうには、情報基盤としてのBIMが必要となる。しかし、日本で作られるBIMモデルは、情報基盤としての構造化データとはいえないばかりか、竣工後には使い捨てられ、再利用されることは少ない。そこで、BIMモデルを構造化データとするためには、何をすべきかを考えてみよう。

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BIM標準があれば何が可能になるのか

 RevitなどのBIMソフトは、ソフトを購入しただけでは実務に活用することはできない。自社の業務にあったBIMのプロセスを考え、それをもとにプロジェクトテンプレートを作り、ファミリ(部品)をそろえておかなければ仕事にならない。

 そこで、事前に環境を整備をする必要があるが、その整備はそれぞれの企業で独自に取り組んでいる。ソフトウェアメーカーやユーザーグループなどから、ベースになる物や考え方は提供されているが、参考になっても、実務で活用するためには、企業ごとにカスタマイズされたルールで再整備をしなくては使い物にならない。大企業であれば、こうした整備に割く体力があるが、小規模の設計事務所では自社では極めてハードルが高い。従って、大企業が整備したBIM標準によって、その協力企業としてBIMに取り組むことが現実的となるが、他の企業の仕事を受けようとしても、企業ごとに異なるBIM標準が存在するので、各社別に担当者を置かねばならず、一向に効率は改善されない。

 各社が整備する必要のあるBIM標準とは、Revitでいえば、BIM規格に準じたモデルや図面を作成するときの下地となるプロジェクトテンプレートと、ファミリ規格に基づいて整備されたファミリ(部品)などのこと。下図のように、業務を効率化するために開発されるアドインツールも、BIM標準とは関係が深い。


企業間で共通化されていないBIM標準の現状

 大企業では、多くの費用と労力を投じて、BIM標準化の整備を進めているが、自社のために、ファミリやテンプレート、アドインツールなどができたとしても、ソフトのバージョンアップに合わせて、改良してゆかねばならず、いずれはBIM標準自体の維持が難しくなる。

ISO 19650が目指す、設計・施工・運用の情報統合とデジタル化

 最初に述べたように、「BIMとは情報を作成・管理する"プロセス"」であるので、構造化データとはいえないBIMモデルや2次元CADなどの非構造化データであっても、設計・施工のプロセスを作ること自体は可能である。

 ただ、それは1つの過程であって、全てのデータでDXの情報基盤と成る“構造化データ”を目指さねばならない。そのためには、まず、企業の枠を超えた業界共通のBIM標準を作ってゆくことが欠かせない。

 これが、ISO 19650の本質である。ISO 19650のタイトルは「BIMを含む建築及び土木工事に関する情報の統合及びデジタル化」で、設計・施工・運用の情報を統合し、デジタル化することを明示している。この根底にある思想こそが、BIMが建設DXの情報基盤と成り得ると思い至った理由に他ならない。

 今回は、日本で作られるBIMデータが建設DXの情報基盤としての構造化データではなく、設計・施工の業務が終わった後に、使い捨てされているという現状と、そこから脱皮するために、共通のBIM標準を作るところから始めなければならないということを述べた。

 第5回となる次回は、BIM標準を一歩前進させ、共通のBIM標準を作るために取り組むべきこととは何か、私見を展開してみたい。

著者Profile

伊藤 久晴/Hisaharu Ito

BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。

近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。

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