DXの情報基盤となる“構造化データ”がなぜ必須なのか?【日本列島BIM改革論:第4回】:日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(4)(2/3 ページ)
これまで「日本列島BIM改革論」の連載では、日本のBIMの危機構造とは何かについて述べてきた。危機構造から脱却し、建設DXへ向かうには、情報基盤としてのBIMが必要となる。しかし、日本で作られるBIMモデルは、情報基盤としての構造化データとはいえないばかりか、竣工後には使い捨てられ、再利用されることは少ない。そこで、BIMモデルを構造化データとするためには、何をすべきかを考えてみよう。
なぜBIMデータを使い捨てにしてしまうのか
日本では、BIMデータは設計・施工を目的として作られており、竣工後のデータ活用までは意図していない。設計・施工のためだけにBIMモデルを作り、その先の維持管理運用の連携やDXの情報基盤という考えが始めから頭にないので、Uniclassなどの分類コードやCOBieのための情報を、BIMモデルに入れる必要性が生じない。竣工後に、設計・施工のために作ったBIMデータに、必要なデータを追加するだけで、維持管理運用のためのデータになると安直に考えている。現実には、それではうまくいくはずもなく、データの追加のために、作り直した方が早いと思えるほどの作業量になったとの話も聞く。
本来は、設計作業を行う前の事業計画の段階で、発注者が建物の運用をどのようにするのかを決めておくべきだ。維持管理運用のためにFMシステムを用いるのであれば、あらかじめ、どのシステムを使い、維持管理運用ではどのようなことを行うかを決め、BIMモデルとの連携手法も確立したうえで、設計・施工に入るべきである。設計・施工段階では、維持管理運用までの連携を当初から意識したモデル作成のルールに基づき、BIMモデルを作成し、適切に情報を入力する。これが、DXの情報基盤となるBIMモデルのあるべき作成方法となる。
Uniclassなど分類コードの入力も、連携するシステムによっては必要になってくる。逆に、何に使うかがはっきりしない情報をモデルにただ詰め込むのでは、時間の無駄になってしまう。例えば、「取りあえず、Uniclassなどの分類コードを入れておけば何とかなる」という甘い考えは、設計や施工の生産性を落とすことにしかならない。
さらに、日本では、竣工後の運用段階での活用を考慮しないだけでなく、新たに作成する他物件でのBIMモデルの再利用も意識されていない。過去の物件のBIMデータを利用しようとしても、日本には建設産業の共通ルールとなる「BIM標準」がないために、企業間でBIMデータの再利用はできない。
また、同じ企業内でも、BIMモデルの管理が十分ではないので、作成者によってモデルの作成方法が異なる場合もあり、仮に似たような物件を見つけても、再利用するよりは、作り直した方がよいという結果に終わることが多い。そもそも、過去のBIMモデルの保管方法も決まっておらず、検索システムも作られてないので、似たような物件を見つけることさえ難しい。そのため、過去に作成したBIMモデルは使い捨てられ、新しい物件の度に、イチからBIMモデルを作っているのが実態である。手間を掛けて作成した貴重なBIMモデルが、運用段階でも、他の物件でも利用されることなく、ホコリをかぶっている。もし、埋もれてしまっているBIMモデルの活用ができるようになるなら、生産性は飛躍的に向上するであろう。こうした課題も、日本の建設業界の危機構造の1つといえる。
使い捨てのBIMデータから脱却し、DX情報基盤と成り得る構造化データを目指すために、何がなすべきだろうか?その答えは、「最も地道に、基本的なところから始める」。つまり、「日本の建設業界で共通して使えるBIM標準」を作るところから、まず着手しなければならない。BIM標準とは、Revitでいえば、モデルや図面作成などのルールを定めたテンプレートや部品(ファミリ)規格のことを意味する。
共通のBIM標準を策定すれば、先ほど述べた運用フェーズでのBIM活用を意図したFMシステムとの連携の仕組みを構築することもできるし、COBieやUniclassなどの分類コードなどの必要性も、検討する機会が生まれる。
では、この「日本の建設業界で共通して使えるBIM標準」とはどのようなものなのか、少し考えてみよう。
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