大成建設が環境DNA分析技術を用いて希少両生類の水中生息状況を把握:導入事例
大成建設は、水や土などに含まれる生物由来(生物の破片、排せつ物など)のDNA分析技術を用いて、建設現場周辺の保全対象地域に生息する希少両生類であるサンショウウオ類の継続的な生息調査を行った。その結果、サンショウウオ類が水中にいる産卵・ふ化から幼生期までの環境DNAを検出できることを確認し、サンショウウオ類の水中での生息状況を把握することに成功した。
大成建設は、水や土などに含まれる生物由来(生物の破片、排せつ物など)のDNA分析技術を用いて、建設現場周辺の保全対象地域に生息する希少両生類であるサンショウウオ類の継続的な生息調査を行ったことを2022年5月9日に発表した。
調査期間を約半年間へと拡大
主に山間部に生息するサンショウウオ類は、水中での産卵・ふ化から幼生期を経て、変態した後に上陸し、森林の落ち葉が堆積した地表面などで生活する両生類で、その生息域は各地で保全対象に指定されている。
そのため、上記のような希少生物が生息する地域やその近傍で施工する工事では、生息環境に影響を与えぬように保全対策を講じるとともに、サンショウウオ類に影響なく施工されていることを、生息状況の調査により確認することが求められる。
一方、従来の調査では目視観察が一般的だったが、幼生期は水底の石や堆積物の下で生活し、上陸後は岩や落葉などの下に隠れて生活することから生息状況の把握が困難で、調査に適した時期が卵塊を確かめられる産卵期(早春)の約2カ月間に限定されている。そのため、継続的な生息状況の把握や保全対策の効果を検証することが難しくなるという問題があった。
そこで、大成建設は、2017年度から生物環境モニタリング技術として適用を進めている「環境DNA分析技術※1」を利用して、里山地域における造成工事区域の湿地に生息するサンショウウオ類を対象に、施工中の生息調査を実施した。
※1 環境DNA分析技術:水や土などあらゆる環境には、そこに生息している生物由来のDNAが存在している。そのDNAを総称し「環境DNA」と呼称されている。大成建設は、環境DNAを採取し分析することで、生物の生息分布や生物量を把握する技術を保有しており、採取した水や土から生物に関する情報を取得し、広域での希少種や外来種の存否調査などへ活用している。
調査では、サンショウウオ類の卵塊が確認された湿地から定期的な採水を継続して行い、採水試料に含まれる環境DNAを抽出・分析することで、継続的な環境DNAの存否をチェックした。その結果、サンショウウオ類が水中にいる産卵・ふ化から幼生期までの環境DNAを検出できることを確認し、従来の目視調査では十分な観察が困難であったサンショウウオ類の水中での生息状況を把握することに成功した。
具体的には、環境DNA分析技術を活用することで、調査期間が従来の産卵期(早春)である約2カ月間と比較して、産卵・ふ化から幼生が変態し上陸する夏ごろまでの約半年間へと拡大した。その結果、長期間における生息情報の取得が可能となり、調査に適した時期を逸してしまうリスクを減らせることが判明。
さらに、卵塊の存在だけでなく、卵からふ化した幼生が生息している段階までを継続的にモニタリングすることで、水中での生息状況の把握が可能となり、建設工事により異変があった場合には早期に保全対策を講じられる。
今後は、多くの生物に対する環境DNA分析技術の適用可能性について検証を進めるとともに、希少生物が生息する地域で建設工事を行う際に、確実な保全を目指して環境DNA分析技術の適用を提案する。
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