太陽光発電所の敷地を希少な生物が生息でき農作物も育成しやすくする新サービス:製品動向
サンリット・シードリングスは、森林などに建設される太陽光発電所の敷地を希少な生物の生息地へと転換させることや農作物の栽培に適した土壌に変えることができ、降雨時の土砂流出も抑えられる土づくりを実現するサービスを開発した。同社は、ETSグループホールディングスと共同で、新サービスを太陽光発電所設備の設計・施工・管理運営とセットにし、生態系リデザイン事業として事業化した。
全体の83%を占める市区町村が「管内における民有林の手入れが不足」と回答
世界的な脱炭素の流れを受けて、日本政府は2020年10月に、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を実現することを目標に掲げた。さらに、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを目的に、再生可能エネルギーの現行目標22〜24%を36〜38%に引き上げることを検討しており、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入拡大が避けられない状況にある。
一方、太陽光発電所を建設する際には、山林や農地、大規模未使用地などの土地が利用され、森林の伐採や土地の造成などが必要となるため、動植物や生態系に悪影響を及ぼすことが指摘されている。とくに50〜100年後に稼働終了となる太陽光発電所跡地の適切な扱いについては、事業者や自治体にもノウハウが備わっておらず、対処が難しい状態だ。
林野庁の調査によれば、全体の83%を占める市区町村が「管内における民有林の手入れが不足している」と回答している。そして、森林の適切な経営管理がなされないと、生態系が本来持つ二酸化炭素の吸収や土壌保全といった機能が発揮されず、災害や地球温暖化の防止など、森林が持つ公益的機能の維持推進にも支障が生じることとなる。このような森林は、森林経営管理制度※1の下で自治体の負担となっているケースも存在し、各地方自治体でも最適な森林・生態系の管理方法を模索している。
※1 森林経営管理制度:経営管理を行う必要があると考えられる森林について、市町村が森林所有者の意向を確認後、森林所有者の委託を受け、民間の林業経営者に再委託するなどし、林業経営と森林の管理を実施する制度
上記のような問題を解決するために、再生エネルギー事業を展開するETSホールディングスと京都大学発のベンチャー企業サンリット・シードリングスは、太陽光発電所の敷地を対象に生態系の設計を行う「生態系リデザイン」事業を2021年6月16日にスタートした。
生態系リデザイン事業とは?
生態系リデザイン事業では、ETSグループホールディングスが太陽光発電所設備の設計・施工・管理運営を担当し、サンリット・シードリングスは太陽光発電所における敷地の土壌解析・太陽光発電の効率を維持した状態で良好な生態系を育む方法やデザイン、評価をパッケージ化したサービスを提供する。
生態系リデザインのサービスは、主に「調査・試料採取」「DNA分析・データ解析と菌の資源化・活用」「植生・遷移の設計」「植生・遷移の誘導」で構成される。調査・試料採取では、太陽光発電所建設候補地の調査と分析を実施し、その土地に存在する菌を資源として生かす方法を探るための試料を採取して、候補地の生態系を多角的に評するとともに、候補地に生息する微生物の集まり「微生物叢(びせいぶつそう)」や生態系を評価する。
DNA分析・データ解析と菌の資源化・活用では、採取した試料をDNA分析し、分析結果をサンリット・シードリングスが保有する独自のノウハウで解析して、微生物叢の把握や評価を行う。加えて、試料から微生物を取り出し、培養して、太陽光発電所の敷地内における生態系づくりに使える微生物を調べた後、活用し土壌の醸成と植物の育成促進に用いる。
植生・遷移の設計では、生態系調査やDNA分析の結果を用いて、太陽光発電所でどのような土づくりや植物育成をするかについて、その内容や方法を決定する。植生・遷移の誘導では、発電所の工事中や稼働中、その後に渡り、発電所敷地の生態系(土壌微生物の状態など)を評しつつ、将来を見据えた生態系の構築・管理を実施する。
2021年6月16日に開催された記者発表会で、サンリット・シードリングス 代表取締役 小野曜氏は、「当社では、生態系リデザイン事業のサービスで、微生物共生ネットワーク解析・微生物叢分析という技術により、対象の土壌に適した最適な微生物と植物の組み合わせを導き出す。具体的には、微生物と植物の相関関係を見える化する微生物共生ネットワーク解析・微生物叢分析を使い、その土地で成長しやすい植物や相性が良い微生物と植物を可視化し、地形の調査データや植生の履歴なども踏まえて、現状より優れ、将来的に豊かな自然となる生態系を構築する」と述べた。
記者発表会で、ETSグループホールディングス 代表取締役 加藤慎章氏は、「生態系リデザイン事業のサービスを利用する企業は、太陽光発電所の敷地で、希少な動植物の生活を支える微生物の生育させられる生態系を構築可能になる他、土壌を把握し、栽培に適した農作物や植物を特定して、その作物を育て販売し収益の向上につなげられる。また、太陽光発電所の地形や土壌の物理性、化学性、微生物叢などを考慮して、発電所の敷地に最適な植物で地表を覆うことで、降雨時の土砂の流出を抑え、保水力を高められるようになる」と利点を話す。
今後、両社は、再生エネルギーを活用した電力を求める事業者や荒廃した生態系を抱える地域自治体向けに、今回のサービスを提供するための準備を進め、生態系リデザイン事業の理念に賛同する事業者や自治体などのパートナーも増やしていく方針を示している。
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