【特別寄稿:前編】アドビ独自の業界別調査から見えてきた“不動産テック”の実態:“不動産テック”を阻む諸課題とその対応策(前編)(2/2 ページ)
本連載では、アドビが独自に実施した調査データを踏まえ、不動産業界での業務のデジタル化に立ちはだかる現状の課題を整理し、宅建法改正を受けて業務がどのように変わっていくのかを、アドビ デジタルメディア ビジネスマーケティング執行役員が前後編に分けて解説します。
不動産業界で、紙の書類を取り扱い続ける背景
重要な取引の契約では、紙の契約書を使うことにはメリットがあります。1つは、デバイスやネットワークなどの設備が不要で、「誰でも読める」「確認できる」というアクセス性の高さです。加えて紙の書類は、多くの人が取り扱いに慣れているため、直感的に署名する箇所が分かり、筆記用具さえあれば署名できるといった扱い易さもあります。
調査結果から不動産業界では、取引先の電子署名/電子サインの理解の低さが普及を妨げていることがうかがえましたが、幅広いステークスホルダーが関わる不動産業界にとっては、現状を変えずに紙の書類のままで進める方が混乱を起こさないという側面があります。
しかし、紙の書類を扱うにはさまざまな課題が存在します。大別すると、紙の書類を管理・保管するためのデメリットと、運用上のコストとリスクです。
意外と気付いていない!紙の書類を扱うための見過ごせないコストとリスク
紙の書類は、誰でも読め、筆記用具があれば署名できる利点があることは上述しましたが、保管や配布などにコストがかかり、同時にリスクも生じます。このことは、不動産業界に限らず、全業界に共通する課題です。
まず、物理的な書類のために、スペースを用意して管理・保管するコストが必要となります。しかも、紛失のリスクが常につきまといますし、経年劣化による破損や汚損も起きるので対策しなければなりません。例えば、宅建業法上で規定されている「取引台帳」は、5年間の保管義務が規定されています。ここで言う「保管」というのはもちろん、(経年劣化していても)正確に掲載内容が参照できる状態の「保管」という意味です。
次に、運用上のデメリットです。例えば、書類を印刷や配布するにも経費が生じます。不動産業界であれば、賃貸契約書などの各種契約書類をプリント後に製本して契約者と取り交わす機会が多くあるので、そのコストは見過ごせません。
ほかにも、書類は誰でも読める一方で、デジタル文書に比べて検索性が劣るので、何かを調べたい、確認したいときには、書類を通して読み、該当箇所を探さなければならないデメリットがあります。
さらに、セキュリティのリスクも抱えています。膨大な個人情報を取り扱うことが多い不動産業界ですから、契約書などの書類は外部に漏洩(ろうえい)しないように、厳重に保管しておくことが求められます。
こうしたコストとリスクは、これまでは当然のものとして誰もが負担してきたと思います。しかし、DXによってこれらの課題を解決できるのです。
さて次回は書類の管理に関するもう一つの課題である運用面でのコストとリスクについて取り上げ、宅建業法の改正についても踏み込んで解説していきます。
「営業職の現場業務のデジタル化状況調査」 概要
調査方法:インターネットによる調査
調査期間:2021年11月25日〜12月1日
調査対象:1500人(現在の職種が営業と回答したビジネスパーソン<業界別に15種100人ずつに分割して均等割付で算出>)
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