【第3回】RTK-GNSSが苦手な「屋内」の建設現場で有効な2種類の測位技術:建設現場を“可視化”する「センサー技術」の進化と建設テックへの道のり(3)(2/2 ページ)
本連載では、日立ソリューションズの建設ICTエバンジェリストが、建設業界でのセンサー技術の可能性について、各回で技術テーマを設定して、建設テック(ConTech)実現までの道のりを分かりやすく解説していきます。第3回は、RTK-GNSSが苦手とする「屋内」の建設現場で有効な測位技術について用途も交えて紹介します。
建設現場でのBLEビーコンのユースケース
次からは、BLEビーコンを用いた建設現場での活用例を2件紹介しましょう。
1.作業員の位置把握による現場作業員への指示の効率化
位置把握により、作業員の位置を確認しながら、効率的に連絡を取ることができます。例えば、危険なエリアにビーコンを設置し、あらかじめ登録しておき、そのエリアに作業員が侵入した際は、スマートフォンにアラートを発信することで安全対策につながります。位置把握は、作業員がいつどこで作業をしていたかの記録にもなるため、作業員それぞれの作業工数や状況を把握しておくことで、その後の作業全体の効率化に役立ちます。
2.建設車両の位置把握
建設現場で用いられる高所作業車は、日常的に多くの台数が運用されており、毎日置き場所が変わります。そこでBLEビーコンを利用して、現在位置を確認するだけで高所作業車を探す手間が省けます。
「SLAM」を用いた屋内測位技術と建設現場での用途
2つ目の技術は、「SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)」を用いた方法です。SLAMは、カメラ映像を用いて自己位置周辺のマップ作成と、そのマップの中で自分がどこにいるのかの自己位置推定を同時に行う技術です。
SLAM技術は、自己位置をセンチ単位で測位できるだけでなく、自分がどの方向を向いているかまでが分かるため、位置測位の精度が極めて高いのです。しかし、カメラの映像をリアルタイムに解析する必要があるため、計算負荷が掛かり、数年前は処理するための専用ボードが必須でした。最近では、処理の効率化と端末の高性能化が進み、スマートフォンで処理することも可能となっています。また、通常のカメラ画像を用いてSLAMを実現する「Visual SLAM」や「LiDAR(Light Detection and Ranging:光による検地と測距)センサー」を用いてSLAMを可能にする「LiDAR SLAM」といった技術も存在します。いずれの方法でも、センサー画像の取得は欠かせません。
建設現場では、「AR(Argumented Reality:拡張現実)」での活用が分かりやすい事例でしょう。先に述べたように、SLAMは位置だけでなく、カメラがどの方向を向いているかも同時に検知するため、ARとの親和性が高く、AR上で3次元設計図のBIMを重ね合わせることで、完成時のイメージと現状の比較が行えます。BIMとARを連携させた先進的な試みはビジュアル的に強力なツールと成り得るので、近い将来、現場でスマートグラスをかけた作業員が日常の光景となるかもしれません。
また、最近では屋内でドローンを飛行させて、建設現場の監視や3次元情報の取得に利用するケースが出てきています。その際、ドローン自身の位置認識にSLAMが役立ち、LiDAR SLAMを用いることで、屋内が暗くとも飛行可能となり、障害物もより正確に検知できるのです。
今回は建設現場でも活用が見込める2種類の屋内測位技術を紹介しました。しかしながら、屋内位置の把握技術は多数あり、それぞれで精度、値段、適応可能な環境が異なります。そのため、利用用途や予算に応じて、正しく理解して適切に技術を選択しなくてはなりません。また、新しい技術も次から次へと開発されているので、測位技術に興味のある人には目の離せない分野となっています。
次回は、建設現場における画像処理技術の活用例を紹介します。それでは、次回またお会いしましょう。
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