大成建設が電波モニタリングシステムの機能を拡張、電波の自動計測と遠隔監視を実現:産業動向
大成建設は、「T-Hospital Wireless Viewer」の機能拡張を行い、T-Hospital Wireless Viewerで、病院巡回中の病院スタッフが電波を自動計測し、モバイル端末を利用して病院内外から電波環境を把握できるようにした。さらに、病院内で、T-Hospital Wireless Viewerの試験運用を行った結果、入院患者の生体データといった重要情報を含んだ医療機器の電波を安定させ、送信できないなどのトラブルを未然に防げることを確認した。
大成建設は、病院内で用いる電子カルテや生体情報モニターなどに利用されている電波の環境を可視化するモニタリングシステム「T-Hospital Wireless Viewer※1」の機能拡張を行ったことを2022年1月25日に発表した。
※1 T-HospitalR Wireless Viewer:電波環境シミュレーションと電波調査・計測に関する各種技術を組み合わせ、病院内の電波環境を可視化するシステムであり、2019年に埼玉医科大学保健医療学部 加納隆客員教授による学術指導のもとで開発された
自動的に全ての病室における電波の強さや電磁ノイズなどを計測可能
昨今、医療機関では、患者の電子カルテや生体情報モニターなど、電波を利用した医療機器の導入により、作業効率を高めている。
しかし、医療機器の電波が届きにくい状況や無線中継機をはじめとする通信機器の増加による電波干渉などで、無線通信が不安定になる事象も顕在化している。そこで、電波環境協議会では手引き書※2を作成した。
※2 電波環境協議会の手引き書:「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き(改定版)」であり、電波による電子機器などへの障害を防止・除去するため手引き書で、学識経験者、関係省庁、業界団体により構成された協議体である電波環境協議会により制作された
さらに、トラブルなく医療機器を使える電波環境を維持するために、電波の届く範囲、強さ、電磁ノイズ、無線中継機の混雑状況など、電波の状態を総合的に把握し、トラブルが発生した場合には、病室単位での調査、原因究明、対策検討を行うことを推奨している。
こういった状況を踏まえて、大成建設は、T-Hospital Wireless Viewerの機能拡張を行った。今回の機能拡張では、病院スタッフが日常利用する医療用台車に小型の電波計測器を搭載するだけで、手引き書で推奨される電波管理に必要な各病室の電波を自動計測し、遠隔地からその情報を見られるようにした。
大成建設は、機能拡張したT-Hospital Wireless Viewerの性能を確認するため、2021年3月に、愛知県新城市の新城市民病院内にある1病棟(34室・59床)で、病院スタッフが使用する医療用台車10台に電波計測器を搭載し、各病室の巡回中に、変化する電波を自動計測する試験運用を行った。
その結果、医療用台車に電波計測器を搭載することで病院スタッフが通常業務に従事しながら、自動的に全病室における電波の強さや電磁ノイズなどを測れ、取得したデータを電波の管理に関わる関係者が共有可能なことが判明した。
加えて、これまでトラブル発生時には専門業者の電波測定により対応してきたが、試験運用では、病院スタッフの通常業務として計測と電波状況の把握が行えることが分かった。このため、トラブルを未然に防ぐための電波環境維持や問題発生時の原因と対策の検討に機能拡張したT-Hospital Wireless Viewerが役立つことが期待される。
今後、大成建設では、新城市民病院内にある65室・110床の2病棟を対象に約6カ月間の期間で、埼玉県日高市の埼玉医科大学国際医療センター内にある20室・44床の1病棟を対象に約3カ月間の試験運用を行い、本格運用に向けたシステムの検証を継続する。また、2022年下期には、病院内での電波管理に関する遠隔サポートサービスのリリースを予定している。
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