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脱炭素社会実現のカギ「リチウムイオン電池」と「水素」、その動的解析と今後の展開脱炭素(3/3 ページ)

国際気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2018年の「IPCC1.5℃特別報告書」で「産業革命以前から続く世界の気温上昇を1.5度以内に抑えるためには、二酸化炭素(CO2)の排出量を2050年前後には正味ゼロ(カーボンニュートラル)に達する必要がある」と示唆した。この特別報告書を受け、日本を含め世界各国はカーボンニュートラルへの目標を表明している。こうした脱炭素社会へのカギを握る1つに、エネルギーを蓄える「蓄電池(2次電池)」が挙げられる。

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 以下に、折笠氏のリチウムイオン電池に関する研究成果をまとめた。

 1.被覆による表面構造変化:

 (電池の中で反応が起こる)電極と電解液の界面をナノスケールで直接、観測することに成功した。その結果、電池の劣化現象や電池を長持ちさせるキーテクノロジー(表面に活物質を被覆させる方法)のメカニズムが明らかになった。


被膜による表面構造変化

 2.結晶相転移の動的挙動解明:

 電池を充電および放電中は、結晶の中にリチウムイオンが移動したときの結晶の動的な変化をX線観測。結果として、より早く充放電反応を進行させるキーテクノロジーのメカニズムが判明した。


結晶相転移の動的挙動解明

 3.合剤電極に発生する反応分布:

 電池の不均一な反応のメカニズムを視覚化。電池材料を詰め込みすぎると反応しないポイントが発生することが分かった。


合剤電極に発生する反応分布

次世代の電池「全個体電池」の動的解析結果

 次世代の電池として、この数年、耳目を集めている全固体電池に関しても、研究者の立場から折笠氏は言及した。

 リチウムイオン電池は、電解質中の濃度が場所によって変化し、電池性能に悪影響を与えることが知られている。一方の全固体電池は、原理的に電解質中の濃度が均一であると考えられていたが、詳細は不明だった。

 そこで折笠氏は、放充電中の電解質の濃度変化を観測する手法を確立。観測したところ、全固体電池の電解質の濃度は均一だと明らかになった。

 一方で全固体電池は、リチウムイオン電池と同様に、金属電極への樹脂状の析出、材料の詰め込みすぎによる反応ムラが発生することも分かった。「全固体電池の電解質が均一なのはメリットだが、(リチウムイオン電池から)すぐに置き換わるとはいえない」(折笠氏)。


全個体電池

次世代電池を開発と学術研究の役割

 加えて折笠氏は、「リチウムイオン電池以外で提案されている革新電池は、それぞれに問題点が多い」と話す。研究者として、研究するほどリチウムイオン電池が優れていることを実感するのだという。

 リチウムイオン電池を超える性能を持つ次世代の電池開発のために、次の研究課題2点を挙げた。

 ・現在の電池における究極的な潜在性=限界を把握

 ・次世代電池での問題解決=リチウムイオン電池で達成できていることの実現、それを上回る性能に挑むこと

 こうした研究開発には、「充放電中の電池のメカニズムの解明」という学術研究の役割が欠かせないと強調し、教授はウェビナーを結んだ。

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