切羽から離れた場所で装薬孔の清掃作業が可能な新たな器具、除去時間を50%削減:山岳トンネル工事
大成建設は、切羽より離れた場所から装薬孔に挿入でき、エアードリルを活用して一度に多数の小石を除去可能な専用清掃器具を開発した。新たな専用清掃器具は、使用することで、切羽からある程度離れた場所で装薬孔の清掃作業が可能となり、切羽から土砂や岩が剥がれ落ちる“肌落ち”による災害を防止でき、作業時の安全性向上を図れる。
大成建設は、山岳トンネル工事の発破掘削を行う際に、爆薬を装填(そうてん)する装薬孔内を安全に清掃するための専用器具を開発したことを2021年5月12日に発表した。
小石が挟まった場合には逆回転させて取り出し可能。
山岳トンネル工事の発破掘削では、発破で用いる爆薬の装薬孔を削岩機により穿孔する。しかし、穿孔作業に伴い小石などが孔内に残る場合は、装薬の支障となるため、事前に取り除く必要がある。
そこで、従来は先端をカギ状に整形した専用除去棒「キューレン棒」を用いて、作業員が切羽(きりは)で装薬孔内を直接目視で確認しつつ清掃作業を行ってきた。だが、この作業は、1つの装薬孔に何度もキューレン棒を差し込んで適切に小石を除去しなければならず、切羽近接での清掃作業時間が長くなり、作業員が肌落ちなどに巻き込まれる危険性があった。
解決策として、大成建設は、切羽より離れた場所から装薬孔に挿入でき、エアードリルを活用して一度に多数の小石を除去可能な専用清掃器具を開発した。
新たな専用清掃器具は、装薬孔の径に合わせて丸鋼を螺旋(らせん)形状に加工したスクリューをドリル先端に装着し、回転させながら小石を絡めとるように捕捉することが可能で、一度に多数の小石を除去する。
また、発破作業には電気雷管を用いた爆薬を用いるため、装薬孔の清掃作業では静電気の発生を防止しなければならないことを踏まえ、開発した専用清掃器具のスクリューを回転させるドリルには安全な圧縮空気で動くエアードリルを使用している。エアードリルに付属した減圧弁・流量調整バルブや操作レバーにより、圧縮空気の吐出量や回転速度の強弱を調整でき、万が一、小石が挟まった場合には逆回転させて取り出せる。
エアードリルは、先端側のスクリューとモーター側のシャフトで構成されており、それぞれをネジで連結した単純な構造のため、シャフト長だけを必要に応じて変えられ、異なる穿孔長にも対応する。スクリューとシャフトはともに鋼製で、現場での簡単な加工で調整や修理などを行える。スクリューシャフト長は、2メートルでも器具の全体の重量が約3キロと軽く、清掃作業時間の延長への対応や器具の取り扱いが容易だ。
大成建設は、新たな専用清掃器具の性能を確かめるために実証試験を実施した。実証試験では、下向き20度に設置した長さ1メートルのパイプ(φ45ミリ)の内部に小石10個(15〜40ミリ)を詰め、従来のキューレン棒(長さ1.2メートル)と今回の清掃器具(スクリューシャフト長2メートル)を用いて、孔内から小石を除去する時間を比べた。結果、キューレン棒での除去時間は60秒だったのに対し、新たな清掃器具では除去時間は30秒で、除去時間をこれまでと比較して50%短縮することが分かった。
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