大成建設らがアタリを見える化するシステムを開発、除去作業で50%の省人化を実現:山岳トンネル工事
大成建設は、演算工房やアクティオと共同で、光波測距儀による建設機械の位置情報と油圧ブレーカーなどの傾斜計情報から、アタリ、余掘りの掘削形状を正確かつ定量的に把握し、建機操作部のモニターに表示することで、オペレーターがアタリ除去作業を安全で効率的に行える切羽アタリガイダンスシステム「T-アタリパーフェクター」を開発した。
大成建設は、演算工房やアクティオとともに、山岳トンネル工事で設計断面に対する岩盤の正確な状況を把握し、切羽近傍に作業員が立ち入らず、オペレーターのみで掘削可能な切羽アタリガイダンスシステム「T-アタリパーフェクター」を開発したことを2021年1月6日に発表した。
余掘り量は従来方式と比較して約15%削減
山岳トンネル工事で発破後に建設機械を用いて岩盤を掘削する場合には、トンネル設計断面に対して岩盤が出っ張る「アタリ」や掘り過ぎによる「余掘り」などの凹凸が発生する。アタリは、設計断面に近づけるために、油圧ブレーカーを用いて取り除き、余掘りは最小限に留める作業が求められる。
従来のアタリ除去では、作業員が切羽付近で目視により確かめ、レーザーポインターで削り取る箇所を指示していたため、切羽崩落などが生じた場合にスタッフが巻き込まれる危険性があった。加えて、アタリや余掘りの状況確認は作業員と建設機械オペレーターの経験や技量に頼る部分が大きい他、アタリの撤去不足が原因で、追加作業や過大な余掘りに伴うコンクリート吹付量増大によるコスト増加なども起き課題となっていた。
そこで大成建設は、演算工房やアクティオと共同で、切羽アタリガイダンスシステムのT-アタリパーフェクターを開発した。T-アタリパーフェクターは、建機に取り付けた2個のプリズムを、作業位置の後方約50〜100メートル地点に設置した光波測距儀2基で追尾測距することで、建機の位置・方向をリアルタイムに可視化する。建機の本体やアーム部、油圧ブレーカーの各部に搭載した傾斜計の情報も活用することで、油圧ブレーカーのノミ先位置を正確に導き出す。
上記の情報を設計断面と比較したデータは、建機の操作部に備えられたモニター上の画面に表示され、オペレーターはこれらをチェックすることで、ノミ先が触れた岩盤のアタリと余掘り状況を確かめられる。
T-アタリパーフェクターの導入により、オペレーターはモニター画面を見ながら油圧ブレーカーを操縦でき、作業員が切羽周辺に近づくことも不要とし、これまでオペレーター1人と作業員1人で行っていた業務がオペレーター1人で実施可能となり、50%の省人化を実現する。
大成建設は、山岳トンネル工事「大野油坂道路荒島第2トンネル西勝原地区工事」で、T-アタリパーフェクターの実証試験を実施した。試験では、オペレーターのみで建機を用いて、アタリの削り作業を行い、安全性や生産性を調べた他、従来方式による通常掘削と新システムを適用した際の余掘り量を比較した。結果、T-アタリパーフェクターを使用することで、アタリを確実に排除し、追加作業が不要となり、余掘り量は従来方式と比較して約15%減らせた。併せて、コンクリート吹付量の低減によるコストダウンとCO2排出量の削減も可能なことが明らかになった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東急建設らが「RGB-Dカメラ」で高精度に肌落ちを検知する新ソリューションを開発
東急建設と東京都市大学は共同で、「RGB-Dカメラ」を用いて、肌落ちとそれ以外の支障物を判別したマスク画像を抽出し、高精度に肌落ちを検知する他、肌落ち箇所と回数を時系列に蓄積したデータを応用することで危険度を定量的に判定することもできる新ソリューションを開発した。 - ケーブル不要の“LPWA”通信でトンネル坑内の計測時間を半分に、大成建設
大成建設は、トンネル坑内の計測作業にLPWA無線通信を採り入れ、通信ケーブル無しで1キロ以上の長距離通信を可能にする計測システムを実用化した。今後は、山岳トンネル工事で行う多くの計測作業に適用することで、現場での作業の省力化を図っていく。 - 山岳トンネル工事で技能者不足を解決、前田建設が開発した防水シートの自動溶着工法
前田建設工業は、山岳トンネル工事の防水シートを自動溶着させる新工法「FILM用防水シート自動溶着システム」を開発した。 - 穿孔作業の遠隔化と発破パターンの最適化を実現する新システム、安藤ハザマ
安藤ハザマは、山岳トンネル工事で、穿孔作業の遠隔化と発破パターンの最適化が行えるシステムを開発した。同社では、今回の開発で培ったノウハウなどを生かし、装薬作業やロックボルト打設の遠隔化と自動化の技術開発を進めていく。 - 建機と作業員の接触を防ぐ「人物段階検知システム」、危険エリア侵入者に2段階で警報
鴻池組とニシオティーアンドエムは、山岳トンネル工事で使用する建機向けに、建機接触防止装置「人物検知システムHADES」を改良し、建機との接触リスクが高いエリア「危険域」だけでなく、危険域手前の「警戒域」に侵入した作業員にも警報を鳴らせる「人物段階検知システム」を開発した。今後、クレーンやフォークリフトなど多様な汎用建機にも取り付けていくとしている。 - 大林組がトンネル工事にAI活用、専門家の知見を学習
大林組は山岳トンネル工事での切羽の評価に、AI技術の1つであるディープラーニング(深層学習)の活用を進めている。一部の項目については、9割近い精度で地質学の専門家と同等の評価が行えているという。