地震発生後10分で“建物の被災可能性”をシミュレート、清水建設が開発した不動産クラウドの新オプション:BCP
清水建設とプロパティデータバンクは、地震が発生した直後に、気象庁が公表する各地の震度と、建物個別の構造や階数、設計年(新耐震基準適用の有無)を掛け合わせ、建築物の被災可能性をシミュレーションして評価するシステムを開発した。
清水建設とプロパティデータバンクは、大規模地震が発生した直後の震災対策活動を支援する目的で、地域ごとに建物群の被災可能性を評価するシミュレーションシステム「BCP‐Map」を共同開発したと2021年4月に公表した。現在は、プロパティデータバンクが提供する不動産クラウド「@プロパティ」に、BCP‐Mapをオプションサービスとして提供する準備を進めている。
エリア別や建物個別で被災可能性を3段階に評価
大規模地震発生直後の被災地では、在住者は身の回りの人的・物的被害の対応に追われ、広域での被災状況の把握や情報共有が極めて困難となる。とくに東日本大震災のように被害が広域に及ぶ場合は、優先すべき対策地域の順位付けや支援物資の最適配分などの検討を被災地で行うことは現実的ではない。また、国内に広く営業網を持つ企業などが被災地域外に設置する震災対策の拠点でも、災害復旧対応にはかなりの時間を要する。
そこで清水建設とプロパティデータバンクは、BCP対応を迅速化・効率化するべくBCP‐Mapを開発。BCP‐Mapは、地震発生後、10分程度で地域ごとに建物群の被災可能性を評価・集計する。被災可能性は、「高(部分的な被害あるいは顕著な被害となる割合が約2/3以上)」「中(被害があるものとないものの割合がほぼ同じ)」「低(無被害あるいはほとんど無被害となる割合が約2/3以上)」の3つの区分に分けて地域ごとに集計。評価・集計結果は、モニターの地図上に円グラフで表示される。
具体的には、被災可能性の3区分に分類された対象棟数が円グラフで示され、地図を拡大・縮小・移動すると地域が自動的に再設定されるため、県域や市域など地域レベルに応じて評価結果を再集計して円グラフで表示。地域単位だけでなく、建物単体での被災可能性の検索・表示や被災可能性順の建物名称リストの表示にも対応している。
BCP‐Mapを提供する@プロパティには、日本全国で約9万棟にも及ぶ建物データが登録されている。BCP‐Mapは、震度5弱以上の地震が発生した直後に、気象庁が提供する各地の震度分布データをもとに、@プロパティの建物データから震度分布が示されている地域の建物を照合し、各建物の構造、階数、設計年(新耐震基準適用の有無)で被災可能性を評価する。この評価手法は、東日本大震災後に清水建設が調査を行った1000棟余にも及ぶ、建物の被害と構造・階数・設計年との相関関係から確立したものだという。
@プロパティのオプションサービス契約者は、どこにいても、Web・ブラウザからBCP‐Mapによる被災可能性の推定結果を参照できる。仮に大震災が発生しても、直後から震災対策拠点で、被災の全体像から個別建物の被災状況に至るまで、シームレスに被災状況が分かるので、応援要員や支援物資、資機材の割り当ての検討・指示などを即座に行える。危機発生時に、事前作成した対応策に沿って対策組織の組成や招集、状況報告などを行うクラウドベースの「BCPオプション」とも組み合わせることで、企業でのBCP対策など、さらなる用途拡大が見込まれる。
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