100年に一度の大雨でも流量を8割減の「ダム放流計画」を10分で立案する日立の自動化技術:検査・維持管理
日立製作所と日立パワーソリューションズは、豪雨時にダムの緊急放流を回避し、下流の流量も減らして浸水を発生させないダムの放流計画を自動作成する技術を開発した。2012年度には、新技術をベースに、ダム管理業務を支援するソリューションを外部にも提供していく。
日立製作所と日立パワーソリューションズは2020年12月15日、大雨による河川氾濫(はんらん)の最小化に向け、実効性のある対策の確立を可能にするダム放流計画の自動作成技術を開発したと明らかにした。
「事前放流」と「ダム連携」を組み合わせた放流計画を立案
新技術は、新たな数値最適化手法を用いることで、ダム下流の河川流量を可能な限り抑える放流計画を自動で作成する。放流計画は、大雨に先立ってダムの水位を下げる「事前放流」と、上下流に設置されている複数ダムの貯留や放流のタイミングをずらす「ダム連携」を組み合わせたもので、ダムの放流量を急激に変化させず、ダムや河川の実態に合った放流量を一定の値以下にする“放流の原則”といった現場のルールを順守している。
オープンデータを利用して、河川上流にある3つのダムを対象に、シミュレーションを行ったところ、一般的な事前放流やダム連携を実施しない放流計画では、ダムが満杯になり、流入量と同量の水を放流する緊急放流に至ったのに対して、新技術では100年に一度の規模となる大雨でも緊急放流を回避しつつ、下流のピーク流量を最大で約80%低減し、浸水を発生させない計画を10分以内に立案できることが確認された。また、1000年に一度の大雨で浸水が発生する場合でも、浸水面積を95%低減することも証明されたという。
近年、気候変動の影響で大雨による深刻な水害が全国各地で頻発しており、対策は急務となっている。これまでは、技術者が雨水のダム流入量を観測し、その都度、ダムの放流量を決めていた。とくに、大雨が頻発する現況で、河川氾濫を最小化するためには、事前放流や複数のダムにまたがるダム連携などの複雑で高度な運用が求められるようになってきている。
だが、緊迫した状況のなかで、放流の原則をはじめとする現場のさまざまな制約やルールを順守しながら、上下流のダムの貯水状況や下流までの流下時間など、さまざまな要素を考慮して最適な放流計画を短時間で組み立てることは、経験を積んだ技術者でも難しいとされている。
そこで、日立製作所と日立パワーソリューションズは、これまで上下水道や電力、交通、物流などで培ってきた社会インフラを対象にした運用計画策定のノウハウを転用し、河川氾濫の最小化を目指し、新技術を開発した。新技術では、プログレッシブ動的計画法という数値最適化手法を用いることで、ダムの放流を実施しても、下流の河川流量と流量の変化を可能な限り抑制できる放流計画を短時間かつ自動で作成することが可能になる。
具体的には、連携するダム同士の放流量とタイミングを最初はごく粗く計算し、その後は放流の原則など現場のルールに準じて、徐々に細かい計算を繰り返すことで、短時間で放流計画を算出する。
日立パワーソリューションズは、2006年より提供を開始した河川の氾濫をシミュレーションするリアルタイム洪水シミュレーター「DioVISTA/Flood」で、さまざまな企業や自治体のBCP対策を支援してきた。今後は、今回の新技術を活用することで、放流計画立案などのダム管理業務を支援するソリューションを2021年度中に提供を開始することが予定されている。
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