3Dプリントは建設業界で事業化できるか?クラボウが2024年度10億円の市場開拓に乗り出す:デジタルファブリケーション(2/2 ページ)
3Dプリンタを建設領域で活用する動きは、海外では先行してコンクリートを積層することで住宅建築や橋梁の造形などといった用途展開が見いだされている。国内では、建築基準法による素材や構造上の縛りがあるため、大手ゼネコンや研究機関での検討は進んでいるものの実用化にはまだ道のりは遠い。そうしたなか、住宅メーカー向けに建築用化粧材を製造しているクラボウでは、フランス製の大型3Dプリンタを導入し、建設業界を対象に3Dプリンティング事業を立ち上げた。セメント系/非セメント系を問わず、新規材料の開発で製作可能なデザインの幅を広げ、土木・インフラ分野などでの提案も図ると同時に、海外市場への参入も視野に入れている。
どんな用途展開で新規市場を形成していくのか?
導入を決めたXtreeEの3Dプリンタは、6軸の垂直多関節ロボットで、積層ピッチは最小6ミリと高精度で、最大2.5メートルまでのサイズを出力する。小型の1500(幅)×300(高さ)×200(奥行き)ミリのモニュメントであれば約30分で成形するという。
「一般的に3Dプリンタは、XYZ軸の3方向で動くプリントヘッドを取り付けた“ガントリータイプ”と多関節で精密に動作する“ロボットアームタイプ”の2種類があるが、当社では外装化粧材で培ってきた意匠性を活用するため、複雑な形状や精緻なデザインを得意とするロボットアームタイプを選定。ロボットアームはABB製で、先端にモルタルを吐出するXtreeEのヘッドを搭載した高さ2メートルのプリンティング設備となっている」(平山氏)。
マテリアル(原料)は、3Dプリント専用のプレミックスセメントに水と混和剤をミキサーで混錬。吐出量は毎分1リッター、平均スピードは毎秒83ミリで出力する。成形サイズは、ロボットアームの届く範囲が楕円球体となるが、XYZ軸の干渉などを考慮すると、直方体の場合は2500(幅)×2000(高さ)×1000(奥行き)ミリが最大サイズとなる。
初段で想定される用途は、門塀・門柱・外壁などの外溝材、公共施設のベンチ・モニュメントといった景観材、スツール・テーブルなどのファニチャー類の受注生産から事業をスタート。その先には、CO2排出量を削減できる材料の開発やプリンタの大型化、建築現場で製作するオンサイト化なども検討し、土木向けの護岸・橋梁(きょうりょう)・トンネルなどへも訴求。クラボウでは、3Dプリンティング事業で2024年度には10億円の売上高を目標に据えている。
3Dプリンタの技術開発では、押し出しと積層の繰り返しで製作していくため、一層ごとの強度=「層関強度」が、品質をいかに安定させるかの焦点となる。連続してモルタルを安定的に吐出する流動保持性、高く積層しても崩れない自立安定性、適切な圧を調整するポンプ圧送性が重要な要素で、そのため製作現場でのマテリアルの配合方法や成形技術、設計力が問われる。
平山氏は、「当社が建材メーカーとして蓄積してきたノウハウを転用し、配合・成形・設計の技術を高め、事業展開していく。国内にはまだ市場が形成されていないため、建築手法やデザイン造形、環境配慮などの面で、既に数社とNDAを締結してパートナーシップを結んでいるが、より裾野拡大のために幅広い業種の企業との協業を模索している」と展望を語った。
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