3Dプリントは建設業界で事業化できるか?クラボウが2024年度10億円の市場開拓に乗り出す:デジタルファブリケーション(1/2 ページ)
3Dプリンタを建設領域で活用する動きは、海外では先行してコンクリートを積層することで住宅建築や橋梁の造形などといった用途展開が見いだされている。国内では、建築基準法による素材や構造上の縛りがあるため、大手ゼネコンや研究機関での検討は進んでいるものの実用化にはまだ道のりは遠い。そうしたなか、住宅メーカー向けに建築用化粧材を製造しているクラボウでは、フランス製の大型3Dプリンタを導入し、建設業界を対象に3Dプリンティング事業を立ち上げた。セメント系/非セメント系を問わず、新規材料の開発で製作可能なデザインの幅を広げ、土木・インフラ分野などでの提案も図ると同時に、海外市場への参入も視野に入れている。
クラボウ 化成品事業部は、仏XtreeE(エクストリー)製の建設用3Dプリンティング設備を大阪府寝屋川市の「寝屋川工場」に導入し、セメント系材料を用いた小型〜中型の立体造形物の受注生産を開始した。3Dプリンタの利点となっている短時間での成形を生かして、商品開発段階での試作サイクルを短縮化するとともに、外構材や景観材といった意匠性の高い造形物を製作し、建設業界で広がるデザイン多様化のニーズに応え、2024年度には10億円の売上高を目指す。
寝屋川工場で2021年5月26日に開催された会見では、新たにローンチした建設用3Dプリンティング事業の戦略について、代表取締役 常務執行役員 化成品事業部長 馬場紀生氏と化成品事業部 技術統括部長 平山貴之氏がプレゼンテーションした。
「配合技術」と「成形技術」を3Dプリンタに活用し、建設市場を開拓
クラボウグループは繊維産業を出発点に、創業から133年を迎えた現在では、多角化の一環として、売上高で全体の40%を占める化成品事業のセグメントで、高質ポリウレタンの断熱材や外装化粧材を扱う住宅建材に進出している。
2021年度を最終年度とする中期経営計画では、「イノベーションによる収益拡大と企業価値の向上」を基本方針に定め、化成品事業でも、建築・土木分野向けの「建設用3Dプリンティング事業」と、EV・航空機・風力発電などを対象とする「クラパワーシート(熱可塑性樹脂+炭素繊維シート)」の新規2本柱で事業拡大をねらう。
建設用3Dプリンティング事業を立ち上げた背景には、近年、住宅購入者の間で、こだわりや個性を住宅の外装デザインで表現する要望が高まっていることがある。商業施設でも、魅力ある空間演出のために独自性の高い装飾を施すトレンドが起き、使用する建材に意匠性の高いカスタマイゼーションが求められている。
また、建設業界では専門職人をはじめとして慢性的な人手不足に陥っているため、省人化や省力化は避けては通れない課題となっており、生産性の向上は国を挙げての重要なテーマとなっていることも一因としてある。
こうした中で、建設業界では型枠を使わず、複雑な形状の立体造形物を短時間に成形できる3Dプリンタに対する期待が高まっており、海外では先行して、セメントを積層する3Dプリンタを用いて、住宅建築や橋梁施工などで活用が進んでいる。
一例として、建築分野に応用したといわれるロシア企業のApisCorでの100万円での家づくり、アラブ首長国連邦の国を挙げたドバイの新規建築物25%を3Dプリンタ建築で賄(まかな)う構想、中国・精華大学でのコストを3分の2に抑えた歩道橋製作などが挙がる。クラボウが採用した3Dプリンタメーカーの仏XtreeEでも、2024年パリ五輪に向けた40メートルにも及ぶ3Dプリント歩道橋プロジェクトを進めている。
クラボウグループで、外装化粧材のセメントモルタル押し出し成型品の開発に長年携わってきた平山氏は、「日本国内でも検討の動きはあるが、建築基準法で建築構造や工法が厳格に定められていることもあり、事業化までは進展していない。しかし、当社が保有する配合技術や成形技術といった材料関係の知見を3Dプリンタと組み合わせることで、業界が抱える課題解決の手段となり得ると思い至った。当社は他に先んじて、参入障壁の高い建築領域での市場開拓を目的に、2017年から調査を開始し、このたびXtreeE製の3Dプリンタ設備を寝屋川工場内に設置した」と経緯を説明。
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