1人の遠隔操作で鋼製支保工の建て込みなどが可能な切羽無人化施工システム:山岳トンネル工事
戸田建設はトンネル工事における鋼製支保工建て込み時の切羽無人化施工システムを開発した。新システムは、トンネル工事で用いるエレクタ一体型吹付機に改良を加え、切羽直下に作業員が立ち入ることなく、オペレーター1人による遠隔操作で鋼製支保工の建て込み、ボルト締め付け、位置決めを可能とする。
戸田建設は、トンネル工事における鋼製支保工建て込み時の切羽(きりは)無人化施工システムを開発したことを2021年1月15日に発表した。
2021年度に新システムの現場試験施工を開始
山岳トンネル工事の鋼製支保工建て込み作業では、掘削直後の切羽直下にスタッフが立ち入るため、掘削した部分の土砂や岩が崩れ落ちる「肌落ち」による労働災害が多く発生している。
事故の数を減らすことを目的に、厚生労働省は「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策にかかわるガイドライン」を発令し、事前調査による地山の状況把握や肌落ち防止計画の策定、施工の機械化による肌落ち災害の低減を求めている。また、山岳トンネル工事では、近年、作業員の高齢化や熟練作業員不足が生じており、施工の機械化による省人化が期待されている。
そこで、戸田建設は、トンネル工事における鋼製支保工建て込み時の切羽無人化施工システムを開発した。
新システムは、長尺化した把持装置に位置決め測定用プリズムを設置し、後方の自動追尾式トータルステーションで測定した鋼製支保工の位置をモニタリングしつつ、微調整機構を有した高性能エレクタを用いて、高精度で設計位置に鋼製支保工を建て込める。
加えて、鋼製支保工の接合では、左右H形鋼の継手部にせん断ピン付きみぞ形鋼を配置し、前後方向で重ね合わせ、切羽正面からボルト締め付け作業ができる。この接合方法は、みぞ形鋼をH形鋼の凹部に収め、曲げモーメント作用時に継手部の変形を拘束するとともに、4本のせん断ピンが曲げモーメントを伝達する機能によって従来接合と同等以上の強度を発揮する。左右H形鋼の両端部に備えるせん断ピンは、長くすることで、重ね合わせて組み立てる際のガイドピンとしても機能させられる。曲げモーメントとは対象物を曲げる力を指す。
さらに、鋼製支保工の組み立て後は、戸田建設が開発した遠隔ボルト締め付け装置を使い切羽正面で鋼製支保工の緊結作業を行う。遠隔ボルト締め付け装置は、施工機械本体の搭乗用バスケット台座に搭載し、位置と角度調整機構を有するボルト締め付け装置「ナットランナ」を利用して、オペレーターがカメラモニターを見ながらリモートでボルト締め付け作業を実施可能。なお、ボルト締め付け作業は、継手部にあらかじめ溶接されたナットにナットランナでボルトを付ける。
上記の工程により、新システムは、オペレーター1人で、鋼製支保工の建て込みやボルトの締め付け、位置決めをリモートで実現する。
戸田建設は、茨城県つくば市にある筑波技術研究所の構造・施工実験棟で、新システムを使用して、鋼製支保工の組み立て実験を実施し、目標としていた性能を確認した。今後、同社は、組み立て実験で得られたデータに基づき、現場適用に向けシステムを確立し、2021年度に現場試験施工を開始する。
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