連続練りミキサーを使った速硬性モルタル吹付けシステム、小断面トンネルの補強で有効:山岳トンネル工事
熊谷組は、ファテックと共同で、速硬性のFCモルタルを連続練りミキサにより湿式で吹付けるコンパクトな施工システム「FCライナー」を開発した。新システムは、既設トンネルの補強だけでなく、新設の小断面山岳トンネルなどで掘削後、断面に吹付けし、早期に閉合する必要がある場合などにも適用できる。
熊谷組は、ファテックと共同で、速硬性のFCモルタルを連続練りミキサにより湿式で吹付けるコンパクトな施工システム「FCライナー」を開発したことを2020年12月4日に発表した。
圧送ホース内の閉塞対策として特殊洗浄システムを搭載
国内の発電量は、原子力発電の利用が減り、火力発電による電力が全体の70%を占め、地球温暖化対策の一環として、水力、太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの活用が増えている。このうち、水力発電所では、安定的な電力供給のために、維持管理が継続的に行われている。熊谷組ではこれまでに、水力発電所の導水路トンネルや放水路トンネル、上水や工業用水取水トンネルといった小断面トンネルの補修・補強工事に携わってきた。
水力発電所の小断面トンネルに対する改修工事では、既設覆工の補強・補修や覆工のない素掘りトンネルにおける地山の肌落ち防止対策としてモルタル吹付工法が多く採用されている。これまで、モルタル吹付工法は、モルタルをミキサーで練る作業と、アジテータ付きホッパーにモルタルを投入し小型ポンプで圧送し吹付ける業務を別々に行っていた。しかし、モルタルの圧送距離が制限されるため解決策が求められていた。そこで、熊谷組は、ミキサー、ホッパー、ポンプが一体となった連続練りミキサーを用いた施工システムのFCライナーを開発。さらに、速硬性のFCモルタルと急結剤を併用することで、施工性の向上と早期の強度発現を実現した。
連続練りミキサーの仕組みは、プレミックスの材料をミキサー上部の材料投入口から投入すると材料がスクリューミキサーにより空練りされながら下方へ搬送される。スクリューミキサー下部で、練り混ぜ水が供給され、オーガーポンプで高速攪拌(かくはん)され、最下端の吐出口からモルタルが排出される。
FCライナーでは、市販されている連続練りミキサーを改良し、施工性を改善した。具体的には、練り混ぜ水は一定量で、連続的に供給され、搭載された電磁流量計で自動計量されるため水量のばらつきも小さい。また、水槽から水を送る際は、別途の給水ポンプを使い、一定の供給量を確保する。
連続練りミキサーは、ミキシングと圧送の機能を兼ね備えているため、材料練りの待ち時間がなく、施工を効率化する。加えて、FCモルタルの速硬性を踏まえ、施工時の段取り替えや吹付け終了時に圧送ホース内の閉塞対策として特殊洗浄システムを連続練りミキサに組み込み、容易に圧送ホースを洗えるようにしている。連続練りミキサーの施工能力は、現在熊谷組で使用しているオーガーポンプで毎時1.2立方メートル。
FCモルタルは、早強で速硬のセメントや細骨材、混和剤、補強用繊維で構成されるプレミックスのセメントモルタル。1袋当たり20キロで、水との粉体比は20%。練り上がり量は1袋当たり12.1リットルで、1立方メートル当たり83袋。液体急結剤を添加しているため急結性を備え、圧縮強度は、1時間後で1平方ミリメートル当たり1.8ニュートンで、3時間後には1平方ミリメートルあたり16ニュートン、28日養生では1平方ミリメートルあたり53.7ニュートンにも及ぶ。練り上がり温度の上昇に連動してモルタルの粘性が拡大し、圧送性が低下するため、練り上がり温度を30度以下で管理する。
今後、熊谷組では、オーガーポンプ(ローター、ステータ)の仕様を変えることで能力の向上を図る方針だ。
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