ビルメンテナンスのDX化を実現するビル管理統合システム「DBM」とZETA通信:建設業で効果的なZETA通信の基礎や最新動向(3)(2/2 ページ)
本連載では、ICTシステムに関する企画やコンサルティング、設計、構築などを手掛けるNECネッツエスアイ ビジネスデザイン統括本部 デジタルタウン推進本部 事業推進マネージャー 川崎孝史氏が、通信規格「ZETA」の基礎知識や最新動向、建設業での活用方法を紹介する。最終回の第3回は、ビルメンテナンスのDX化=スマートビルディングに不可欠なビル管理統合システムDBMやその先に見据えるスマートシティー・スーパーシティー構想について解説する。
ビルメンテナンスのDX化=スマートビルディング
このような仕組みに大きく関わってくるのは、BAS(Building Automation System)だが、設備監視として成熟してきたBASと、人が中心となって行ってきたビルメンテナンスの連携は、現状では残念ながらほとんどされていない。ビルマネジメント全体のDX化を加速させるのが、ZETA通信と、次に紹介する「ビル管理統合システムDBM(Dynamic Building Matrix)」である。ZETAを活用した設備監視などのモニタリングと、ビルメンテナンスの多様な業務をデジタル化するDBM、さらにはBASとの連携によって、各課題の解消につながる。
ビル管理統合システムDBM(Dynamic Building Matrix)
DBMは、クラウドベースのビルマネジメントシステムで、さまざまなビルメンテナンス業務を統合管理する仕組みである。主に3Dモデルによる可視化やタスク管理、資産管理機能で構成されており、建物空間や設備、点検業務、環境などの情報を管理・可視化するシステムだ。ZETAと組み合わせることで、ビル内で起きた多様な「事(こと)」をリアルタイムに収集し、それをデジタル化し管理する。
【DBMの大きな特徴】
- 設備ごとに別個で表示されていた情報を、一元管理(3D表示、ダッシュボード)しモニタリング
- センサーの情報やイベント、点検・巡回業務の可視化
- 巡回、点検業務のデジタル化(予定、実行、報告、記録)
DBMを活用した実証
ZETAアライアンスでは、神奈川県のイノテックビルでDBMとZETAの実装に関する実証実験を行っている。
【主な実証項目】
- ビル内にZETAのセンサーを設置し、各種データの取得
- DBMを活用し、保守点検業務のデジタル化
- ビル建物の3Dモデル化と、上記データの統合監視
また、DBMとZETAで、建物内のさまざまな機器とサブシステムの運用と保守を集中的に監視することで、建物管理の最適化や運用コスト削減、作業効率の向上を図っている。そして取得したデータの分析により新たな価値を創造するなど、実証実験はスマートビルディングの具現化を目的としている。さらに実証参加企業により、車番検知AIカメラなどを追加連携させることで、さらなる付加価値の創造も目指している。
スマートシティー・スーパーシティー構想への発展
ここまでは、ZETA通信とDBMの組み合わせで、スマートビルディングの実現に向けた取り組みついて紹介してきた。筆者の将来的なビジョンとしては、この延長線上に、スマートシティー、そしてスーパーシティー構想に通ずるものがあると考えている。ビルと人の集合体が街となるが、街もまた人口減少と高齢化という深刻な問題に直面している。スマートビルディングの取り組みは、多様なものがつながり合い、そして持続可能なまちづくりの礎になるはずだ。
これは、NECネッツエスアイが提唱する「デジタルタウン(Digital×Town)構想」と一致している。デジタルタウン構想とは、つながることで、安心・安全を確保しながら、前述のような課題を地域一体で克服し、住民がさらに住みやすい街、持続的に発展していく“まちづくり”を目指す構想である。
おわりに
第1回目では、ZETA通信の概要、建設領域への活用、第2回目では、コロナ渦でのIoTの意義、ビルや施設への活用、そして今回の第3回目では、ビルメンテナンスのDX化=スマートビルディング、ビル管理統合システムDBM、スマートシティー・スーパーシティー構想への発展について述べてきた。
3回にわたり連載したが、この間においても通信技術や世の環境も大きな変化の渦中にある。このような状況において、IoTやDX技術、LPWAや5Gといった通信の動向把握や選定において、本連載がその一助になれば幸いである。いま直面している困難な状況を克服、脱却し、さらなる発展を遂げることを願って、結びとしたい。
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