国内初、急曲線対応の遠隔操作モードを備えた「セグメント運搬車」を西松建設が導入:導入事例
西松建設は、外輪の曲率半径12.5メートルまでのカーブ走行が可能なセグメント運搬車両を実現場に初適用した。
西松建設は2020年12月、横浜湘南道路トンネル工事に、急曲線走行が可能な仏Metalliance(メタリアンス)製の多目的運搬車両を国内で初めて導入したことを明らかにした。
狭隘な箇所は、遠隔無線操作で危険を回避し走行
横浜湘南道路トンネル工事は、セグメント運搬車両を立坑内で旋回させて上り線から下り線へ走行させる必要があったが、立坑内の旋回半径が小さいため、国内に対応できる車両が無かった。
そのため、Metallianceとともに現場に適合するように詳細設計を行い、伊藤忠TC建機を介し、セグメント運搬を主目的としたタイヤ式運搬列車(Train Sur Pneu:TSP)を採用することが決定した。
通常、タイヤ式運搬車はレール式運搬車に比べ、セグメントの受け取り位置合わせが難しいとされるが、メタリアンスの運搬車両は、自動誘導ステアリングによって、より正確な位置に誘導することができる。さらに、運転者の安全確保のため、リフター下部での操作は遠隔操作によって無人での進入退出が可能となった。
タイヤ式多目的運搬車の仕様は、3台の車両が1編成として構成され、各車両は2ピースのセグメントを搭載する。運転モードは、「通常モード」、外輪走行半径最小12.5メートルの「急曲線モード」、全ての車軸が同じ方向を向き車両全体が斜めに平行移動する「クラブモード」、狭隘(きょうあい)な場所や門型の中央に誘導する時などに使用する「自動誘導モード」、全ての車軸の車輪が先行する車輪と同じ軌跡を通る「シングルトラックモード」の全5種類。
このうち、遠隔無線操作の自動誘導モードは、各車両6個で計18個取り付けられたレーザーセンサーにより、左右の壁からの距離を計測して、その値から車両の軌跡をコンピュータで計算し、その軌跡通りに走行するように車軸の方向を制御する。壁から一定距離の位置を保ちながら自動走行するため、狭い通路やセグメントリフター下部を走行する時など、運転席で操作すると危険が伴う現場での無人走行が実現する。
なお、無線操作ではステアリング操作は自動だが、機械の前後進、エンジンの始動停止、緊急停止および解除、警報音、パーキングブレーキは手動でコントロールすることができる。また、前方に人や障害物があった際は、運転席上部に装備されたラダーシステムが有効で警報音が鳴る仕組み。
シングルトラックモードは、車両左右の牽引(けんいん)ジャッキの角度センサーで、それぞれの車両の車軸位置を検知する。進行方向を変える場合には、記録装置のデータを読み込み、往路と同じ軌跡で戻れる。
今後の展望として西松建設では、多目的運搬車の特性を生かし、人車にするための搭載箱やコンクリート運搬のアジテータ、資機材運搬の籠などの使用も検討し、さらに有効に使えるようにするとともに、遠隔操作の箇所を広げ、自動運転の実現に向けて取り組んでいくとしている。
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