鹿島の“シチズンデベロッパー”実践例、協力会社の生産性向上と技能伝承を「Power Platform」で実現:導入事例(3/3 ページ)
非効率な生産性と技能伝承が建設業界の壁として存在するなか、鹿島建設 横浜支店では、協力会社の業務効率を改善するアプローチで解決すべく、Microsoft Power Platformを活用して、「工事進捗管理システム(内装・建具)」を自社の事務系社員が開発した。さらに、技能伝承をデジタル技術で代替することも見据え、2021年から現場適用を予定する「建設資材運搬システム」では、ベテラン調整係の暗黙知をデータ化する基盤の整備も検討している。本稿では建設業でのDXとシチズンデベロッパー実践のケーススタディとして、鹿島建設の事例を紹介する。
調整係の負担を軽減する「建設資材運搬システム」
3つ目の建設資材運搬システムがターゲットとする建設資材の運搬業務は、協力会社へ指示を出しスケジュールを作成する「調整係」、資材搬入を行う「協力会社」、フォークリフトでの水平移動やエレベーターの重機で資材を揚重する「運搬係」の3者が相互に連携して行っている。調整係は原則、元請け社員が担当するが、大規模な現場では専門の協力会社が担うこともある。
こうした役割分担の中で、調整係は、協力会社からの運搬申し込みを運搬スケジュールに落とし込む“転記”と、手書きのスケジュールを電子化する作業に大幅な時間を取られていた。
そこで、建設資材運搬システムには、協力会社がスマホで予約申し込みをする「予約アプリ」、調整係が予約の調整や複製、作業完了の実績入力、タイムラインでの運搬予定の確認を行う「調整アプリ」、運搬係用の「運搬アプリ」の3つのアプリで構成して、3者それぞれの業務効率化を図っている。このうち運搬アプリでは、スマホの専用画面でゲートや揚重機を選択すれば、確定した運搬スケジュールを閲覧。図面表示では、どの資材がどこにどれだけ配置されるかが分かるように一括で示される。
建設資材運搬システムは、2020年8月まで実現場でテスト導入していたが、アプリの表示速度に難点があったため、システム改良を経て、2021年1月に大型複合施設の現場で再度、試験運用を開始する。その後、同年4月からは横浜支店管轄の全現場へと展開する見込みだ。
将来は、建設資材運搬システムの新機能として、ルート配送と暗黙知での活用も見据えている。ルート配送では、資材を運搬する協力会社が複数現場を最短で効率良く回れるルートを算出して示し、無駄の無い計画的な資材運搬の体制を整える。
暗黙知では、これから蓄積されていく運搬実績のデータをベースに、Power Platformの機械学習ツール「AI Builder」で、熟練の調整係が保有する勘をデータ化する。具体的には、資材や物量の情報から、予約時に必要な人数、所要時間、エレベーターの稼働回数などをAIが提示し、経験の浅い調整係をサポートする。
Power Platformのメリットについて鹿田氏は、「サーバレスで開発に集中でき、Power Automateであればプログラミング言語も必要としない。現に内装・建具のシステムは、事務系職員2人で対応し、IT技術者に頼ることなく自らシステムを開発する“シチズンデベロッパー”を実現させた」と説明。
また、「2段階認証など多要素認証を追加可能なため、セキュリティ面でも安心。アプリケーション作成ツールのMicrosoft Power Appsが端末やOSに依存しないことも含め、協力会社など不特定多数の利用を前提としたケースではシステムを構築する上で強みとなる」とも語った。
今後の展望については、「協力会社にも、コミュニケーションツールMicrosoft Teamsの利用を拡大し、現場内のコミュニケーションを活性化させる。加えて、3つのシステムへアクセスするタブをTeamsのインタフェース上部に設けて、利便性の向上も図っていく。今後も日々、機能改良されるMicrosoftのプラットフォームを活用することで、建設現場のDXを進めていきたい」と述べ、締めくくりのあいさつに代えた。
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