「デジファブで建築の民主化を」VUILD秋吉代表が拓く建築ファブの夜明け【後編】──“コンピュテーショナルデザイン”との融合:ニューノーマルを生きる建築のRe-build(2)(4/4 ページ)
DIYの下地が無い日本でも欧米に遅れること、都市の中で市民誰もがモノづくりを行える工房「FabLab(ファブラボ)」が各地に開設されてから数年が経つ。建築の領域では、マテリアルを切削や積層して形づくる3Dプリンタが、ゼネコンを中心に研究されているが、業界の裾野まで浸透するには、海外とは異なり法令規制など幾多の課題が立ち塞がっているため、まだ時間を要するだろう。しかし、デジファブによって、建築の産業構造そのものを脱構築し、建築モノづくりの手を市井の人に取り戻そうとする意欲的な建築家 秋吉浩気氏が現れた。
暮らしを豊かにする“建築の民主化”
VUILDのコアと位置付けるEMARFが対象としているのは、何も建築関係者だけではない。VUILDが創業時から将来ビジョンとする「専門家でなくても誰もが設計者となり、自分の望んだ暮らしを創っていける“建築の民主化”」との言葉通り、一般市民のデジファブへの参入も見据えている。
建築の民主化の理念は当初、インタビュー前編でも触れた工業化されたプレハブ住宅と、高額な建築家住宅の中間に、生産効率も良く手が届きやすい価格のデジファブ住宅を確立し、別々に分離されている「建築モノづくり」と住宅の「暮らし」をより近づけることを目的としていた。
その先には、知識やノウハウで扱う人が限られている建築モノづくりの手法を開け放つことで、誰でも思い描いたものを自由に作れる世界が実現することをミッションに据えている。市民の場合は家具などの生活用品のDIYであり、建築のプロにとっては追求しているデザインの具現化で、これにより各人の生活(暮らし)が豊かになるとしている。
VUILDの次なる事業構想「誰もが理想とする暮らしを手に入れる」
最近は、自宅とは別に、地方にもアトリエのような別荘を建てたいというニーズがVUILDにも多く寄せられている。現に、新型コロナウイルス感染症の拡大とともに、リモートワークやテレワークの浸透も追い風となり、都市部を避け地方移住の希望者が増加していることは各種統計にも表れている。市場の要望に応えるべく、VUILDでは、住宅・不動産ポータルサイトを運営するLIFULL(ライフル)に代表される既存株主やその周辺のスタートアップとともに、EMARFをエンジンにした戸建て住宅向け新規サービスのローンチを予定している。
構想では、地方で家を建てたい施主が、遊休地のデータベースから土地を決め、EMARFの戸建て住宅のテンプレートを用いて希望の家を設計。全国各地の工房のネットワークで、活用されていない各地域の遊休木材を加工し、提携している工務店などが施工を行う。現実のものとなれば、このサービスは自分の理想とする暮らしをデジファブによる建築モノづくりで手に入れるという、VUILDの理念が現実のサービスとして昇華したものとなる。
「EMARFの住宅サービスは、住宅の資金調達にもメスを入れる。住宅ローン以外の選択肢として、現代版合掌造り“まれまれびとの家”で募ったクラウドファンディングやソーシャルレンディング、共同出資など、全く新しい住宅供給の在り方を提示する。ITを駆使したスタートアップのVUILDだからこそ、実現可能なサービスをこれからも産み出していきたい」と秋吉氏は意欲をのぞかせ、インタビューを終えた。
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