押し込みと引き抜きの荷重がかかる建物の杭やアンカーを不要にする「PSPII工法」:新工法
青木あすなろ建設ら9社は、常時と地震時に押し込み荷重が作用する場合や地震時に引抜き荷重がかかる建物に対しても適用できるように、「ソイルセメント改良体(PSP)工法」を改良し、「ソイルセメント改良体工法(PSPII工法)」に名称を変えた。2020年3月25日付で日本建築総合試験所の建築技術性能証明をPSPII工法として改定した。
青木あすなろ建設、安藤ハザマ、奥村組、戸田建設、西松建設、松村組、鴻池組、五洋建設、鉄建建設の9社は、2003年に共同開発した「ソイルセメント改良体(PSP)工法」のPSP体※1を改良した。
具体的には、PSP体に常時と地震時に押し込み荷重が作用する場合に加えて、地震時に引き抜き荷重がかかる建物に対しても適用できるように、設計・施工法を改善し、名称を「ソイルセメント改良体工法(PSPII工法)」に改称した。
※1 PSP体:ソイルセメント改良体内に鉄骨が挿入された構造体を指す。
工期を約10%短縮しコストは約10%カット
従来、ソイルセメント壁は、地下掘削工事の際に仮設の山留め壁として建物の外周部に用いられるのみで、建物を支持するためには通常の杭が必要だった。
しかし、建築物を支えるものとして使えれば建物外周部の杭を減らせるため、青木あすなろ建設ら9社は、ソイルセメント壁の性能を向上させ、構造物の地盤改良体として利用するPSP工法を2003年に開発し、建築技術性能証明を取得して適用を推進してきた。
だが、押し込み荷重に対して直接基礎で支持する建物と、塔状比の大きい中低層建物では、地震が起きた時、建物基礎に大きな引き抜き荷重が作用するケースがあり、これまでのPSP工法では対応が難しく、引き抜き抵抗用の杭や本設地盤アンカーを別に構築していた。
あるいは、掘削深さを拡大して、基礎底に厚いコンクリートを打設してコンクリートの重量で引き抜き荷重対策を図っていた。そこで、青木あすなろ建設ら9社はPSPII工法を開発した。
PSPII工法は、ソイルセメント壁の性能を高めるとともに、厳密な施工管理や品質管理で、建物を支える躯体として利用する。規定の削孔速度や撹拌(かくはん)回数で、セメントミルクを注入しながら撹拌混合して要求性能を満たすソイルセメント改良体を造成し、内部に鉄骨を挿入。
完成したソイルセメント改良体は、建物の押し込み荷重が鉄骨に加わった後、ソイルセメントや鉄骨の付着力、先端に配置したシアコネクター(頭付きスタッド)の抵抗力で、ソイルセメントと周面あるいは先端の地盤に荷重を拡散する。一方、建物の引き抜き荷重は、鉄骨に伝わった後、ソイルセメントと鉄骨の付着力でソイルセメントと周辺の地盤に荷重の力を逃がす。
PSPII工法の効果を確かめるため、同工法を採用した径650ミリのPSP体に引き抜き試験を行い、地震時の引き抜き荷重に耐えられる構造性能を確認した。
また、同工法で作成したソイルセメント改良体の施工試験を行い、ソイルセメントの均質性や強度など、引き抜き荷重が作用する際に必要な仕様を確保可能なことが明らかになった。結果、これまでの押し込み荷重に対する設計に加えて、引き抜き荷重に対処する設計手法と施工方法を確立した。
青木あすなろ建設ら9社の調査結果によれば、地震時の引き抜き荷重が作用する地上9階/地下1階建ての建物に新工法を適用すると、地盤アンカーを設置して地震時の引き抜き荷重に抵抗させる方法に比べ、工期を約10%短縮し、コストは約10%カットすることが判明している。
今後、青木あすなろ建設ら9社は、新工法の実物件へ適用し、基礎工事の合理化や環境負荷の低減を進めていく。
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