【第6回】「迷走する設備BIMの後れを取り戻せ!」(前編):BIMで建設業界に革命を!10兆円企業を目指す大和ハウス工業のメソッドに学ぶ(6)(3/3 ページ)
日本での設備BIMがなかなか進んでゆかない。これは大和ハウス工業も例外ではない。しかし、日本の設備業務は、意匠・構造とは異なる“特殊性”があり、これがBIMに移行しにくい原因とされている。しかし、BIMに移行するためには、設備のBIM化を避けて通ることはできない。どう乗り越えてゆくかが重要な鍵になる。そこで、設備BIMが置かれている現状の課題を分析した上で、設備BIMのあるべき姿を示し、設備がBIMに移行するために何をしなければならないかを、同社技術本部 建設デジタル推進部 次長・伊藤久晴氏が前後編の2回にわたり詳説する。
「後追い」の設備BIMは何が問題か?
先に述べたように、現状で大和ハウス工業の設備BIMは、「後追い」なことが多い。設備CADを使って2次元で図面を完成したうえで、その3次元機能でモデルを作り、IFCに変換したデータで、意匠や構造とのモデル統合を行うというものである。
これまでの作業であれば、2次元で図面が完成した段階で、設備担当者の役目は終わっている。BIMでは、その後モデル化を行い、IFCへ変換して、統合モデルを作り、干渉チェックを行うという作業を何度か繰り返して整合性を図るのだが、今までには無かった作業が生じるため、BIMによる作業負荷として、全体の作業量が確実に増えてしまう。
このような作業では、間に合わなくなるため、さらにモデルを作るという作業が増え、2次元CADが完成しない段階で、3次元モデルを作ることが多い。その際は、同じ設備CADを使っていても、3次元モデルのため、図面とは全く連携しないモデルを作ることになる。このようなモデルは、その場限りのデータで、その後の変更に追従せず、「使い捨て」のデータとなってしまう。また、こうした手法では、設備担当者に負荷が掛かってしまうので、設計BIMをやるためには、期間と費用が上乗せで必要になり、生産性向上とは真逆の現象が起きることにもなる。
後追いで作った設備モデルの主な目的は、干渉チェックである。干渉チェックにより、設計段階で問題点を無くしておくことが、施工段階の手戻りを減らすことになるが、先に述べたように、位置や寸法が決まっていない設計モデルで干渉チェックを行うと、干渉部分が多く報告される。その中には、重要なものも抽出されるが、そのほとんどは、大した不具合ではない。
当社でも一時期、コーディネーションミーティング開き、関係者を集め、干渉による問題点の把握と解決ということを積極的に行っていた。プロジェクト物件単体でするのはアリだと思ったが、全物件で、コーディネーションミーティングの準備時間と、参加者全員がチェックする手間を考慮すれば、設計段階での干渉チェックは、自動干渉チェックなど、負担の軽い形で行うべきではないかと思うようになった。
設備担当者にとってBIMモデルを作る作業が増えた上、施工BIMに連携できす、干渉チェック自体が主目的にならないとしたら、設計の設備BIMとは何だろうか?何のために設備BIMをやる必要があるのか?そのあたりが明確化されていなく、安易に設備が「後追いでモデルを作ること」を設備BIMと呼んでいる現状があるとしたら、そこが一番大きな問題ではないだろうか。
次回の後編では、今後の設備BIMに必要なことについて、考察してゆく。
★連載バックナンバー:
『BIMで建設業界に革命を!〜10兆円企業を目指す大和ハウス工業のメソッドに学ぶ』
■第5回:日本のBIM先駆者が指摘する「日本の施工BIMは、ここに問題アリ!」(後編)
■第4回:日本のBIM先駆者が指摘する「日本の施工BIMは、ここに問題アリ!」(前編)
■号外:【緊急提言】「新型コロナ」災害をBIMによる業務改革の好機とすべし!
■第3回:日本のBIM先駆者が定義する「BIMはチェンジマネジメントである」
■第2回:日本のBIM先駆者が示す「BIMが目指すゴールへの道標」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 晴海に隈研吾氏が監修した「CLTパビリオン」が誕生、1年後には産地の真庭市へ移築
東京都中央区晴海に国産材活用のシンボルとなるパビリオンが誕生した。CLTを680立方メートル使用した木の現しが特徴的な建物は、隈研吾建築都市設計事務所がデザイン監修したもので、これまでCLTの一般的な用途だった壁や床ではなく、梁として使用されている。解体後に移設・再築が可能な構造で設計されており、1年間の運用後には、木材が生産された岡山県真庭市で建築物として第2の人生を送るという。 - 構造部門で初の“BIMによる確認申請”、大和ハウス工業が実現できた2つのポイント
BIM(Building Information Modeling)元年から2018年で11年が経過し、国内でもBIMによる確認申請が一部で始まっている。大和ハウス工業は、社内で構造BIMの作業フローの統一的な基準を定め、構造部門で初の試みとなるBIMによる確認申請を行った。構造BIMで確認申請するためのカギや構造BIMで何が変わるのか、大和ハウス工業の講演から読み解く。 - “10兆円企業”を目指す大和ハウス工業が成長基盤と位置付けるBIMへの取り組み
大和ハウス工業は、大成建設のBIM(Building Information Modeling)アプリケーション「T-REX」をカスタマイズし、自社の既存テンプレートから全面移行した。これにより、意匠・構造・設備がAutodesk Revitで連携する一気通貫の体制を整えることに成功している。最近の成果として、日本ERIの協力のもと、Revitで作成したBIMモデルによる建築確認申請を実現したという。 - 大和ハウスの「D's BIM」顧客満足度と働き方改革で、2020年に“全物件のBIM移行”を目指す
2055年に売上高10兆円企業を標ぼうする大和ハウスは、成長戦略の重点施策として全物件のBIM化を進めている。これまでに実績として、パートナーシップを結んでいるオートデスクのRevitで作成したモデルで建築確認申請や設計と自社の住宅工場とのBIMデータ連携などを行っており、2018年度下期には71件でBIM化を行ったという。 - 「21世紀の建築は“柔らかい素材”の時代となる」隈研吾氏
東京大学工学部建築学部 隈研吾研究室と小松精練は2013年から共同プロジェクト「サステナブル・プロトタイピング・ラボ」を実施しているが、同シンポジウムで隈研吾氏は先進建材による建築業界の変化について語った。 - ≫連載「BIMで建設業界に革命を!〜10兆円企業を目指す大和ハウス工業のメソッドに学ぶ」バックナンバー