BIMの限界を突破 “IM”へ進化を促す新しい活動「BIM Innovation HUB」始動!(その2):日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ(14)(3/3 ページ)
BIM Innovation HUB が活動を開始し、Webサイトを公開した。前回は、本活動のメインコンセプトと、主な機能のうち2つを紹介した。今回は、残る機能となる「参照情報」「共有資源」「BIM成熟度調査」について説明する。BIM Innovation HUBでは、今後5つの機能をさらに拡充させてゆくことで、情報マネジメントに対応するための知識や実践的な手掛かりを得られる場としていきたい。
参照情報5 その他の参照情報
BIMや情報マネジメントをより深く理解し、実践するには、直接BIMに関係するものだけでなく、関連する分野の国際規格などを理解しておくことも欠かせない。情報マネジメントは単独で成立するものではなく、セキュリティや品質など他のマネジメント体系との連携により成り立つ。例えば、ISO 19650-5のセキュリティ志向のアプローチを理解するためには、情報セキュリティマネジメントシステムの「ISO/IEC 27001」などの規格も参考になる。その他の参照情報では、関連する情報について順次紹介していく。
参照情報6 日本での取り組み
日本でも国土交通省による「建築BIM推進会議」など、BIMの普及や活用に向けたさまざまな取り組みが進められている。国際規格や各国のガイドラインを実務に適用するためには、日本の制度や運用との関係を把握することも重要となる。日本での取り組みの項では、日本国内で進められているBIMに関する主な政策や取り組みの中から、特に重要と思われる内容をピックアップする。
現時点では、建築分野でのBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第2版)と、建築確認のBIM図面審査ガイドライン(初版)を取り上げている。
機能4 共有資源
ISO 19650の情報マネジメントでは、複数の組織が関与する環境で、情報を一貫した方法で作成/管理/共有することを前提としている。共有資源とは、複数の組織が共通のルールで情報を生産して利用するための基盤だ。各企業や組織がそれぞれ異なるルールや書式で業務を行った場合、情報の整合性が保たれず、円滑な協働作業を行うことができない。このような課題を解決するには、組織や企業を越えて共通に利用できる共通基盤を共有資源として整備し、情報の作成方法や構造を統一することが不可欠だ。共有資源は、プロジェクト全体で利用する共通のテンプレートやライブラリオブジェクトなどを指し、共通データ環境(CDE)で情報の一貫性と品質を確保するための基盤にもなる。
ISO 19650-2:2018(5.1.6)では、共有資源の例として以下が示されている。
- プロセスアウトプットのテンプレート類(BIM実行計画、マスター情報デリバリー計画など)
- 情報コンテナのテンプレート類(2D/3D形状モデル、文書類など)
- 書体のライブラリ(線、文字及びハッチングなど)
- オブジェクトライブラリ(2Dシンボル、3Dオブジェクトなど)
BIM Innovation HUBでは、具体的な事例として、応用技術が提供する「BooT.one」のRevitテンプレート(意匠・構造)を紹介している。
BIMソフトウェアの共有資源
BIMソフトウェアの1つAutodesk Revitでは、共有資源として、テンプレートだけでなく、共有パラメーターやファミリ(オブジェクト)など、モデリングや情報付与のルールを構成する要素も含まねばならない。単なる作業効率の向上にとどまらず、情報の一貫性と再利用性を確保する上で重要な役割を果たすからだ。
BIHで紹介しているBooT.oneのテンプレートは、整合性のあるモデルと成果物を効率的に作成することを目的としたもので、次の内容で構成されている。
- Revit用プロジェクトテンプレート(意匠・構造)
- モデル作成標準(ガイドライン/BooT.one Standardsドキュメント)
- 共有パラメーター
- ファミリテンプレート<現在準備中>
- サンプルファミリ(テンプレートに含まれているもの)
日本では、RevitなどのBIMソフトウェアを使っていたとしても、各社が独自にプロジェクトテンプレートやファミリを整備して運用している場合が多い。企業や組織を越えて共有できれば、各社ごとに開発や整備をしてきたファミリやアドインツールを、手を加えることなく利用することが可能となり、教育なども共通化できる。
BooT.oneは応用技術が提供している仕組みであり、今回無償公開されているのは、意匠・構造設計のテンプレートやモデル作成標準などだ。これだけでも設計作業は可能だが、ファミリ集やアドインツール、サポートなどを含む有償サービスを活用することで、より高度な環境を構築することも可能になる。
今後の共有資源の取り組み
今後の共有資源の取り組みとしては、プロセスアウトプットのテンプレート類(BIM実行計画、マスター情報デリバリー計画など)が重要な部分となる。ISO 19650に準じた形で提供する必要があるが、すぐに対応することは難しい。なぜなら、こうした文書は単体で成立するものではなく、情報要求や組織体制、プロジェクトの条件などを前提として初めて意味を持つからだ。
例えばBIM実行計画のテンプレートを公開したとして、他の管理文書を使わず、それだけを利用することは、誤解や誤用を招きかねない。BIM実行計画は情報マネジメントのプロセス文書の一つであり、全体の運用の中で適切に位置付けられて初めて機能する。
こうした課題を踏まえつつ、今後はこれらの共有資源も段階的に整備していく。
BIM 成熟度調査
BIMや情報マネジメントの取り組みを客観的に把握することは、BIMの推進や展開において重要であり、現状を把握することで初めて改善の方向性を定めることが可能となる。海外でも、これまで多様な方法でBIM成熟度調査が実施されてきた。有名なものでは、「BIM Maturity Matrix(Succar)」「NBIMS-US BIM Capability Maturity Model」などがある。しかし、どちらも少し古く、モデル中心の評価が多いため、日本の実務や情報マネジメントの視点には必ずしも適合していない。そのため、新たな評価方法が必要だった。
そこで、BIMプロセスイノベーション監修のもと、CNS(旧CADネットワークサービス)がWebによる無料の自己入力方式の「BIM成熟度調査」を実施する。調査対象は、設計段階とし、意匠・構造・設備設計を総合的に担う設計事務所やゼネコンの設計部門を想定している。
BIM成熟度調査は、2026年6月頃の運用開始を目指し、鋭意準備を進めている。
BIMからIM(情報マネジメント)への進化を促すために
BIM Innovation HUBは、「BIMからIM(情報マネジメント)への進化を促すために、活動をスタートさせた。3次元のBIMモデルを作り活用するだけでは、本質的な進化に至らない。設計・施工のプロセスそのものを、関係者全員の関与のもとで変革していくための情報マネジメントの導入が必要だ。しかし、情報マネジメントを普及させてゆくためには、国際規格や海外の動向などを踏まえ、わかりやすく伝えていくことも不可欠となる。
私一人の力には限りがあるために、BIM Innovation HUBでは、活動の趣旨に共感し、共に研鑽(けんさん)を積み重ね、発信していく仲間を募集している。活動で目指す姿は、営利ではなく、有志による日本の建設業における情報マネジメントの発展にある。
活動の内容は、「情報マネジメントに関する用語の解説」「ニュースやイベント情報」「BIMや情報マネジメントに関する参照情報の紹介」などの執筆が主となる。
地道な活動ではあるが、建設業に情報マネジメントへの正しい理解を広め、生産性向上や持続的発展といった課題の解決に貢献するためには重要な試みだと自負している。一人ひとりの知識や経験の積み上げが、日本の建設業における情報マネジメントの未来を形づくるはずだ。
建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオとして
私はこれまで、「日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ」の連載で、日本のBIMの課題や問題点をさまざまな角度から指摘してきた。しかし、課題を指摘するだけでは状況は変わらない。そこで、このBIM Innovation HUBの活動を開始するに至った。
今一度問いたい。何のためにBIMや情報マネジメントに取り組むのか。それは2次元CADからBIMソフトウェアにツールを変えるためではない。設計・施工における生産性向上や設計変更の削減といった根本的な課題を解決するためだ。実現のためには、新しい技術や概念を取り入れるだけでなく、それを前提とした業務の在り方そのものを見直す必要がある。
BIMから情報マネジメントに視点を移し、それを学び、自ら考え、計画し、関係者全員で実践し、改善を重ねていく。この積み重ねこそが、建設業界の「危機構造」を脱却するための道筋となるだろう。
著者Profile
伊藤 久晴/Hisaharu Ito
BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。
近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。
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