「図面を“読む”から、完成形を“見る”へ」BIM×ARが埋める、ベテランと若手の認知格差:建設DX研究所と探る「建設DX最前線」(10)(1/2 ページ)
建設DXの推進を目的に建設テック企業が中心となり、2023年1月に発足した任意団体「建設DX研究所」。本連載では、建設DX研究所のメンバー各社が取り組む、建設DXの事例や技術開発について詳しく解説していきます。今回は、xRや空間コンピューティング技術を活用したシステム開発を行うホロラボが、ベテランと若手の認知の格差を埋めるBIM×AR技術を紹介します。
依然深刻な建設業界の人手不足と技術継承の課題
2024年4月に適用された建設業への時間外労働上限規制、いわゆる「2024年問題」から1年以上が経過しました。業界全体での取り組みにより、労働時間の短縮のための業務効率化といった改革は一定の進展をみせました。しかし、現場の最前線に目を向けると、本質的な課題である担い手不足と技能継承の悩みは、解決するどころか、より深刻さを増しているのが実情ではないでしょうか。
特に若手や経験の浅い技術者をいかに早く戦力化するかということは、どの企業にとっても喫緊の課題です。彼らが一人前の現場監督になるために立ちはだかる壁として、図面を読み解く力の習得に膨大な時間がかかることが挙げられます。
本稿では、これまでベテランの経験と勘に依存していた、図面を読み解くための脳内での3次元化というプロセスを、BIMやAR(拡張現実)で代替する意義について論じます。仕事のやり方を図面を“読む”から完成形を“見る”へと変えることが、若手の心理的負担を減らし、確実な手戻り防止につながる鍵となります。
なぜ手戻りは無くならないのか?脳内変換の限界
建設現場で、工程の遅延やコスト超過を招く最大の要因は「手戻り」です。なぜ、これほど注意深く確認していても、手戻りは無くならないのでしょうか。その根底にあるのは、設計図書(2次元)と現実空間(3次元)の間にある深い認知の溝です。
熟練の現場監督は、平面図や断面図を見ただけで、瞬時に頭の中で建物を立体的に立ち上げることができます。「ここにこの配管が通ると、足場と干渉するな」「この納まりだとメンテナンススペースが確保できないな」といったシミュレーションを、脳内で高速に行えるのです。一方で、経験の浅い若手技術者には、その高度な「脳内レンダリング」は困難です。図面の線が何を意味し、空間的にどう配置されるかイメージしきれないまま施工が進むため、現場で組んでみたら物理的に納まらなかったといった事態が発生します。
このベテランと若手の間にある認知の格差こそが、手戻りの原因です。かつては、長い下積み期間を経て先輩の背中を見ながら、数年がかりでこの空間認識能力を養う余裕がありました。しかし、工期短縮と生産性向上が急務となっているなか、教育による個人の能力向上を待つ時間の猶予はありません。
だからこそ、発想を転換する必要があります。人の能力向上を待つのではなく、情報の表示方法そのものを「2次元」から「3次元(AR)」へと変え、誰でも直感的に理解できるようにする必要があります。
正解を現場に重ねる、ARによる視覚的合意形成
BIMデータをARデバイスを用いて現実空間に実寸大で重ね合わせるというこの手法は、既に現場で活用され始めています。
新設工事での合意形成の他、既存の構造物が存在するリニューアル工事やインフラ補修の現場でも効果を発揮しています。実際に補修工事で取り組まれた事例を紹介します。
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