未経験の豪雨から現場を守る――民間洪水予測システムの最前線【構造計画研究所解説】:建設DX研究所と探る「建設DX最前線」(6)(2/2 ページ)
建設DXの推進を目的に建設テック企業が中心となり、2023年1月に発足した任意団体「建設DX研究所」。本連載では、建設DX研究所のメンバー各社が取り組む、建設DXの事例や技術開発について詳しく解説していきます。今回は、構造計画研究所が提供する施工現場での豪雨リスクを予測し、重機や作業員の安全確保に役立てる洪水予測技術について紹介します。
豪雨に挑む現場 「RiverCast」で守る重機と人
実際に民間の洪水予測システムは施工現場で活用され始めています。例えば、構造計画研究所のリアルタイム洪水予測システム「RiverCast」は、東京大学と共同開発した高度な予測手法を活用し、最大15時間先までの河川水位を定量的/確率的に提示します。そのため、「どのくらいの確率で、どの程度水位が上がるのか」を数字で示し、客観的な安全判断を可能にします。
ある工事現場では、RiverCastが示した急激な水位上昇の予測に基づいて重機を早めに退避させる判断を行いました。結果として重機の冠水被害を回避し、作業員の安全確保とともに工程への影響も最小限にとどめました。
このように洪水予測システムは、単なる災害リスク軽減だけでなく、工程遅延やコスト超過防止といったプロジェクト全体の安定化にも寄与しています。
令和6年(2024年)台風第10号の予測事例
高精度な河川水位予測は、被害を最小化するためのリードタイム(準備時間)確保に直結します。その1つの例として、大分県竹中地点(筑後川水系玖珠川)で行ったRiverCastの検証結果を紹介します。
2024年8月29日に九州に上陸した令和6年台風第10号は、西日本を中心に大雨をもたらしました。最大で3.76メートルの水位上昇が記録され、堤防天端高を超える危険な状況となりました。
観測雨量を用いた検証では堤防越水リスクを的確に捉え、システムの高い精度が証明されました。さらに、当時の予報雨量で予測した場合でも、誤差による過大評価はみられたものの、水位上昇の傾向を高精度で再現していました。実際には15時間累積で最大200ミリの雨量が過大に予報されており、その影響が予測にも反映されたと考えられます。
大分県竹中地点の事例は、予報の不確実性を含みながらも、現場での安全判断に生かせる信頼性のある予測を提供できることを示しています。豪雨災害に備える上で、事前に水位上昇の見通しを立てられることは、作業員や重機の安全を守り、現場に安心をもたらす大きな支えとなります。
予測技術とデジタル連携が切り拓く建設DXの未来
建設DXの進展により、現場のあらゆる情報をデジタルで再現/活用する時代が到来しています。洪水予測システムと施工管理データを連携させれば、防災だけでなく、リスクマネジメントや工程の効率化にまで効果が及びます。未来の建設現場は、予測情報と連動する「動的なデジタルツイン」として進化していくでしょう。
同時に、気候変動で豪雨災害リスクが高まる中、AI/IoTを活用した民間の洪水予測システムは、現場で信頼できる情報源としてその重要性を増しています。
RiverCastの事例は、建設DXが実際に安全確保や損失回避に直結することを示す好例です。今後は、こうした技術をいかに普及させ、業界全体で共有していけるかが、持続可能な安全/安心の基盤を築く鍵となるのではないでしょうか。
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