未経験の豪雨から現場を守る――民間洪水予測システムの最前線【構造計画研究所解説】:建設DX研究所と探る「建設DX最前線」(6)(1/2 ページ)
建設DXの推進を目的に建設テック企業が中心となり、2023年1月に発足した任意団体「建設DX研究所」。本連載では、建設DX研究所のメンバー各社が取り組む、建設DXの事例や技術開発について詳しく解説していきます。今回は、構造計画研究所が提供する施工現場での豪雨リスクを予測し、重機や作業員の安全確保に役立てる洪水予測技術について紹介します。
気候変動で増える「経験のない豪雨」への備え
日本各地で「これまでに経験したことのない豪雨」が相次いでいます。気象庁の観測によれば、1時間に50ミリを超える短時間強雨の発生件数は過去40年間で約1.5倍に増加。地球温暖化の影響が気象の極端化として顕在化しており、従来の治水インフラだけでは十分に対応しきれない状況が生じています。
「100年に一度」とされてきた水害が数年おきに発生するリスクが現実化し、社会全体で新たな備えが求められています。
建設現場を直撃する「突然の水害リスク」
建設業界にとっても豪雨災害は大きな脅威です。安全対策が整っていても、重機や資材が浸水すれば工期やコストへの影響は避けられません。建設現場にとって水害は、まさに「突然襲い掛かる最大のリスク」といえます。水害リスクを避けるためには、特に以下の3つの観点が重要となります。
- 施工中の安全確保:河川近くの現場では、数十分の豪雨でも浸水リスクが高まります。作業員や重機を守るため、短時間先の予測精度が不可欠です。
- 重機や資材の保全:冠水による重機故障や資材損傷は、修繕費や工程遅延につながります。迅速な退避判断が損失回避のカギを握ります。
- 行政情報の限界:気象庁や自治体が発表する予測は広域的かつ防災目的で、工事現場レベルで活用するには情報粒度が粗く、住民には危険が無くても、建設現場では作業の進捗や安全上の懸念が生じることがあります。
つまり、現場に直結する判断材料として「より詳細でリアルタイムな予測情報」が強く求められています。
AI/IoTで進化する民間洪水予測システムの各役割
従来の河川監視は国や自治体が主体でしたが、近年はAIやIoT技術を活用した水位観測や民間の洪水予測システムが登場し、予測データの活用も可能です。
- IoTセンサーによるリアルタイム水位観測
河川や排水路に設置されたセンサーが水位や流量を常時監視し、閾値を超えるとクラウドを介して即時通知。現場へのアラート発信が容易です。
- AI技術による高精度予測
水位、流域全体の雨量、ダム放流量、潮位などの多様な蓄積データを活用し、未経験規模の洪水にも対応した水位予測が可能です。
- 施工管理との連携
予測情報をBIM/CIMや工程管理システムと組み合わせることで、「何時までに作業を中断すべきか」「どの重機を優先退避すべきか」といった判断を支援できます。
こうした技術により、従来は経験や勘に頼っていた対応が、データに基づく科学的判断へと進化しています。
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