建設業は機能不全? 職人不足の危機を業界としてどう乗り越えていくべきか【Polyuse解説】:建設DX研究所と探る「建設DX最前線」(4)(1/2 ページ)
建設DXの推進を目的に建設テック企業が中心となり、2023年1月に発足した任意団体「建設DX研究所」。今回は、建設DX研究所の一員で建設用3Dプリンタのスタートアップ企業「Polyuse」が、職人不足と施工単価の高騰という建設事業者に迫る課題に対し、抜本的な改革の必要性と建設DXの重要性について解説します。
深刻化する職人不足の現場と予測
建設需要は年々増加している一方、建設業の就業者数は減少し続けており、人手不足はますます深刻化しています。日本商工会議所の調査では、建設業の8割が「人手不足」と回答しており、数字にも業界が抱える担い手確保の難しさが現れています。
中でも深刻化しているのは、型枠工、鉄筋工、ブロック積工、クレーンオペレーターといった熟練の技量が求められる職人の不足です。国勢調査によると、型枠大工の総数は近年急激に減少しており、2020年までの5年間で4万6010人から4万840人と、職人人口の約9分の1にあたる約5000人が減少しました。
さらに、日本型枠工事業協会の調査をもとに当社が推定した結果、2035年には2万154人にまでになるとの予測が出ました。2020年からおよそ15年で、一気に約半数の型枠大工が引退などで消失することになります。
当然現場への影響は極めて甚大でしょう。従来2人でこなしていた現場作業を1人で回さなければならなくなりますが、現場作業の生産性を急激に2倍に向上させることは困難です。急激な人手不足には抜本的な対策が不可欠です。
職人不足は施工コストにも影響
人手不足の影響は、国土交通省発注工事の施工パッケージ型積算方式標準単価表にも現れており、集水桝や重力式擁壁の価格はそれぞれ年間10%弱のペースで高騰しています。この傾向は今後も続くと見られ、型枠大工が大幅に不足する2035年には、現在の2倍以上の金額に跳ね上がる計算です。
現在は、人材の取り合いや現場間の調整によるコスト高という影響に留まっています。しかし、今後職人不足が深刻化すれば工事量に対して職人の供給が圧倒的に不足し、たとえ支払金額を上げたとしても職人が確保できずに施工が滞ってしまう“X day”が訪れてしまうでしょう。
何より懸念すべきは、こうした事態が日本全国で一律に発生するわけではないということです。山間部や島しょ部といった地域では問題が既に偏在しており、場所によっては工事が滞り始めています。
特に災害現場では深刻な事態に陥る傾向があります。能登半島の施工現場では、職人不足が顕著で、地形的影響も相まって、工事進捗が大幅に遅延しかねないという声を現場訪問の際に伺いました。
他にも中国地方山間部での工事では、市街地の職人に声を掛けても移動時間が短い市街地の工事を優先するため、職人の確保が困難になっているという話も耳にしています。結果として、わざわざ近畿地方から職人を呼び寄せ、近隣の工事区画の事業者と職人を融通し合う形で施工を実施していることもあるようです。
このままでは人手不足の深刻化により、社会インフラを担う工事が遂行できない社会があと一歩のところまで来ている危機感を誰しもが持つべきでしょう。
工事量を減らすことも難しい
こうした課題に対して、「今の職人の数で対応可能な範囲まで、工事量を減らせば良いのではないか」という声が必ず挙がります。一義的には正しいですが、インフラは時間とともに老朽化し、メンテナンスのサイクルの中では更新が必須のため、工事量を減らすことは更新すべき構造物を放置してしまうリスクの先送りにすぎません。
さらに日本は毎年のように豪雨や台風、地震などの自然災害に見舞われます。当然ながら老朽化しているインフラは、災害に対して非常に脆弱で破壊されやすく、高確率で復旧の必要性が生じます。インフラ更新を放置、または先送りしたからといって自然が待ってくれるわけではないため、工事量を減らすことはできないという結論に至ります。
職人人口の減少は、これまで維持してきた日本のインフラの保全と利便性維持という観点から見ると、既に機能不全に陥っており、危機的な状況にあるといえるでしょう。
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