公共工事で施工管理DX、神奈川県藤沢市 働き方改革や技術伝承、施設管理の高度化へ挑む:自治体の建設DX(2/2 ページ)
神奈川県藤沢市は2025年度から、全国の自治体で初めて施工管理クラウド「ANDPAD」の本格利用を開始。現場の遠隔臨場や写真/図面管理をデジタル化することで、職員と事業者双方の働き方改革を推進する。導入の背景や効果、今後の展望を取材した。
トライアルを経て、現在では市発注工事の8割超で利用
トライアルは市内の墓園合祀墓(ごうしぼ)と、市が長野県の八ヶ岳に所有する野外体験教室で実施。遠隔地でもチャットや図面共有で情報伝達がスムーズになり、遠隔臨場機能が現場確認や検査の効率化にもつながった。
トライアル期間、ANDPAD側は無償ライセンスを提供し、市は以前から所有していた自前のiPad端末を利用して初期コストを抑えた。2025年度からの本格導入に当たっても、iPadは新たに購入せず継続して使用。ライセンス料のみを予算化して、コストを抑制したスモールステップでの導入を実現した。
本格導入から3カ月余りで、写真管理のみなど部分的な利用を含め、市発注工事の約85%でANDPADが使用されている。職員からは「現場で撮影した写真を図面に落とし込めるので、帰庁後の整理作業が不要になった」「撮影場所の特定も容易になり、効率が大きく向上した」など、特に写真整理に関する負荷の軽減に関して評価の声が挙がっている。
また、施工業者とのコミュニケーションも改善した。計画建築部 公共建築課 上級主査 最上澄代氏によると「これまでは電話やメールでのやりとりが多く、情報が膨大になると修正依頼が埋もれることもあった。今はチャットで完結するため、スピードも透明性も向上した」という。利用した施工業者からも「デジタル化により書類提出などで市役所に足を運ぶ手間が減り、コミュニケーションも円滑化した」とおおむね好評だという。
次年度はアカウント数追加も視野に
今後の課題として挙げたのが、ANDPADのアカウント数だ。現在は約30アカウントを契約し、全ての工事で職員が使用できる体制を整えている。ただし、アカウントを施工業者の希望に応じて付与したり、遠隔臨場で他部署に付与したりするには数が不足している。
計画建築部 建設総務課 建設DX・GIS担当 課長補佐 山本陽子氏は「2025年度の本格導入の効果を検証し、次年度以降にアカウント拡充の準備をしている」と話す。
また、職員側の意識変容も重要なテーマだ。田中氏は「従来の業務フローに慣れた職員は、新しいツールの利用に少しハードルを感じているようだ。説明会や研修を重ねて操作に慣れる必要がある」と述べた。
法定検査で遠隔臨場活用、技能継承にも効果
藤沢市は建築基準法に基づく法定検査でもANDPADの遠隔臨場を適用し始めている。既に防災倉庫の工事で試行した。「従来は3人で現場に赴いて検査を実施していたが、1人が現地、2人が庁舎からオンライン参加という方式に切り替えることで、移動時間と人件費を削減できる」と田中氏は説明。
さらに、技術継承という観点でも可能性を秘める。「遠隔臨場の導入により、画面越しに若手職員がより多くの事例を見られるようになる。検査のプロセスを学ぶ重要な機会になる」(田中氏)。
将来は施設管理への活用も検討
藤沢市はANDPADに蓄積した工事データを、改修/維持管理段階で活用する構想も持つ。現状では、建物の改修や修繕を行っても、その内容が断片的にしか記録されないことが多い。空調や電気設備の交換、内装の補修といった作業も、担当者が異動したり年月が経過したりすると「何をいつ直したのか」が分からなくなってしまう。
「設備機器の入れ替えや内装の改修も記録が断片的で、後任の職員が把握しにくい。竣工時だけでなく改修や入れ替えの履歴をデジタルデータに集約し、日常業務の中で蓄積していければ、修繕計画や長寿命化に活用できる」(最上氏)と今後の可能性を語った。
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