熊谷組らがチューリッヒ工科大学と開発した「巨大ロボットハンド」公開 奈良先端大の「自動掘削AI」も披露:無人化施工(4/4 ページ)
筑波大学、熊谷組、奈良先端科学技術大学院大学は、自然災害発生時の復旧作業での活用を想定した建設用ロボットハンドと、自動掘削AIの動作実験を公開した。ロボットハンド技術は、チューリッヒ工科大学との国際共同開発し、壊れやすい物体でも柔らかく把持できる。自動掘削AIは「Sim-to-Real」強化学習を応用し、現場環境に合わせた最適な施工方法を自ら立案して、掘削と同時に地中埋設物もすくい取る自動化施工の技術だ。
掘削と同時に、地中障害物の検知と除去を自動で行うAI
自動掘削AIは、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の松原崇充氏らが開発し、公開実験は茨城県つくば市南原にある土木研究所の建設DX実験フィールドで、AIを搭載した自動油圧ショベルで自動掘削した。プロジェクトのターゲットとなる河道閉塞の現場では倒木が埋まっている可能性が高い。そこで掘削と同時に、妨げとなる地中障害物の検知と除去も行った。今回は水を流すための溝を自動で掘ることを想定し、障害物としては倒木の代わりにパイプを使用した。
AI開発には学習データが必要となるが、現実世界ではデータ収集コストが高いので、自動掘削AIは仮想空間のみで訓練して開発した。具体的にはNVIDIAの深層強化学習向け物理シミュレーション環境「Isaac Gym」で、油圧ショベルや画像深度カメラ、パイプ、土砂で構成した物理シミュレーター環境を開発。さらに実環境のばらつきにも応じる手法「ドメインランダム化」を適用した。データはGPUにNVIDIA GeForce RTX 4090、CPUにIntel Core i9-9900Xをそれぞれ使用して、15時間をかけて10万サンプルを収集した。
こうした技術開発によってAIはシミュレーター上の訓練のみで、どのように掘削を行うのかに関する行動ルールを過去の履歴を参照しながら獲得し、パイプ検出位置や外力、サイズ、土砂粒子間の摩擦や建設ロボットの油圧駆動など、現実に起き得る多様な不確実性に対応しつつ掘削できる。
自動掘削AIはどのような掘り方が良いのかを実行しながら判断し、行動を選択していく。1回目では失敗しても、その結果を見て2回目にはすくい方を変え、うまく掘っていく。障害物のパイプに出くわしたときも同様で、どのような姿勢をとればうまく除去できるかをシミュレーターで学んでいるため、すくい出す方法を自ら考えて除去する。
AIが立案するのは、例えばパイプの前に穴を掘って、そこに落としてから取るといった施工方法や手順などだ。パイプの長さも1メートルや1.5メートル、2メートルと変更しても対応する。一方で人の手で行動ルールを設計した場合は、認識誤差の影響を受けやすく、うまくすくい取りができなかったとのことだ。
デモでは、AI搭載のバックホウが自動で障害物(パイプ)を除去した。学習の結果、一度にうまく取り出せないときは、あえて溝を掘ることでその中にパイプを落とし、すくいあげやすくしている。今回のデモでも、同様のすくい方でパイプを除去した。
バックホウは土木研究所のもので、内部制御はロボット開発によく用いられるミドルウェアの「ROS」対応に改造している。NAISTが開発したAIの実行はノートPCで行い、そこからROSの信号を出力してバックホウが動作する仕組みだ。
松原氏は強化学習を実環境に応用するエキスパートで土木は未経験だったが、建設現場の日々変化する環境下での自動掘削に成功した。また、ランダム化範囲の効率学習、シミュレーションの解像度を段階的に高めることで、効率的に学習できる技術も確立。詳細は2025年9月2〜5日、東京都目黒区の東京科学大学 岡山キャンパスで開催する「第43回ロボット学会学術講演会(RSJ2025)」で発表するという。
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