補助制度が使える今のうちに! 建築物の省エネ認証の計画的な取得を:「省エネ計算の専門家」が解説する建築物省エネ動向(5)(3/3 ページ)
本連載では、環境・省エネルギー計算センター 代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆。第5回は、環境性能認証取得に役立つ補助制度と、利用時の注意点を解説します。
都道府県の補助制度
国の補助制度の要件に当てはまらない場合でも、都道府県の補助制度を活用できる可能性があります。
東京都では以下のような制度があります。
【東京都既存住宅省エネ診断・設計等支援事業】
補助対象者は、住宅の所有者(共同住宅の区分所有者を含む)と共同住宅等の管理組合で、住宅とは一戸建て住宅や長屋、共同住宅、下宿または寄宿舎を指します。
補助対象事業は主に以下の2つです。
- 住宅の省エネ診断(省エネ診断の費用、既存住宅でのBELS取得費用など)
- 住宅の省エネ設計など(省エネ改修のために必要な調査/設計/計画に関する費用、補助金の交付を受けて行う省エネ設計計画の実現に向けた工事監理費用、改修後の住宅にかかるBELS取得費用など)
補助率や補助上限額は以下の通りです。
申請書の受付期間は2025年5月22日〜2026年2月16日です。
上記で言及している「省エネ診断」とは、省エネ計算を指します。事業所のエネルギー使用状況を診断する「省エネ診断」とは異なるものです。東京都内の既存住宅に限りますが、BELS取得費用が最大で3分の2が補助される有用な制度です。
義務化が進むことで補助制度がなくなる可能性も?
補助制度は費用を抑えながら環境性能認証を取得する有効な手段ですが、将来なくなる可能性もあります。
2023年度まで実施されていた「既存建築物省エネ化推進事業(省エネルギー性能の診断・表示に対する支援)」は、現在はありません。2024年4月施行の改正建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度を見据え、全国の建築物でBELS取得に関する費用の3分の1を補助していました。
省エネ性能表示制度の開始で、建築物の販売や賃貸を行う事業者が広告などに省エネ性能を表示することが努力義務化され、BELS取得が進んだことが理由と考えられます。
今後、2030年には全ての新築建築物、2050年にはストック平均でZEH/ZEB水準確保が求められます。こうした流れに合わせて、ZEHやZEB取得に関する補助率や補助制度の縮小/終了の可能性もあります。
補助制度が活用できる今のうちに、計画的に対応を進めることが重要です。
著者Profile
尾熨斗 啓介/Keisuke Onoshi
環境・省エネルギー計算センター(運営会社:HorizonXX)代表取締役。
日本大学 理工学部 建築学科、日本大学大学院 理工学研究科 不動産科学専攻卒業後、大手日系証券会社に入社。不動産ファンドアレンジメントやREIT主幹事業務に従事する。その後、大手外資系証券会社で同様の業務に従事。2012年に独立し、HorizonXX(ホライズン)代表取締役に就任。2019年に「環境・省エネルギー計算センター」のビジネスを開始。
現在、建築物の省エネ性能が基準を満たしているかどうか調べる「省エネ計算業務」を引き受け、国の政策推進に貢献する「環境設計士」という新たな職業の確立を目指し、年間約1000件の省エネ計算/環境性能認証取得サポートを請け負う。
近著に『環境性能認証に対応できる「不動産・建築ESG」実践入門』(日本実業出版社)。
★連載バックナンバー:
本連載では、環境・省エネルギー計算センター 代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆します。
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