BELS、CASBEE、DBJ GB…環境性能認証は不動産の“必須要件”になるか(前編):「省エネ計算の専門家」が解説する建築物省エネ動向(2)(1/2 ページ)
本連載では、環境・省エネルギー計算センター 代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆。連載第2回は、不動産業界で勝ち残るカギの1つとなるグリーンビルディングと建築物の環境認証の役割について解説します。
世界的にESG(環境、社会、ガバナンス)に対する関心が高まる中、日本でも大手企業を中心にESGへの配慮と開示方法が重要な課題となっています。
建築/不動産業界では省エネに関する法規制が進んでいるものの、建築費の高騰や労働力不足により、新築の着工棟数は減少傾向にあります。さらに2025年4月に始まった省エネ基準適合義務化によって建築のハードルが上がり、この流れに拍車が掛かる可能性も否定できません。
一方、既存建築物でも環境性能認証を取得する動きが徐々に広がりつつあります。連載第2回となる今回は、日本における不動産ESG拡大の背景を踏まえながら、環境性能認証が求められる理由について解説します。
なぜ、環境性能認証が求められるのか
環境配慮型の不動産の推進は、1997年の「気候変動に関する国際連合枠組条約の第3回締約国会議(COP3)」で採択された「京都議定書」に端を発します。京都議定書は、先進国に温室効果ガス排出量の削減義務を課した条約で、日本は第一約束期間(2008〜2012年)に、1990年比で6%の削減が求められました。
その後、2015年9月には国連サミットでSDGsが、同年12月にはCOP21でパリ協定が採択されました。パリ協定では全ての締約国に温室効果ガス排出量削減目標の策定と努力義務が課され、日本は2030年までに2013年度比46%削減(条件付きで50%削減)の目標を掲げています。
項目 | 京都議定書 | パリ協定 |
---|---|---|
全体の目標 | ・条約の究極目標(人為的起源の温室効果ガス排出を抑制し、大気中の濃度を安定化)を念頭に置く | ・産業革命前からの気温上昇を2℃よりも十分下方に抑えることを世界全体の長期目標としつつ、1.5℃に抑える努力を追求 ・今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランスを達成するよう、世界の排出ピークをできるだけ早期に迎え、最新の科学に従って急減に削減 |
削減目標の設定 | ・附属書I国(先進国)全体で2008〜2012年の5年間に1990年比5%削減させることを目標として設定 ・附属書I国(先進国)に対して法的拘束力のある排出削減目標を義務付け(日本6%減、米国7%減、EU8%減など) |
・全ての国に各国が決定する削減目標の作成/維持/国内対策を義務付け ・5年ごとに削減目標を提出/更新 |
削減の評価方法 | ・条約において、温室効果ガスの排出量に関する報告(インベントリ、国別報告書)の義務付けがあり、京都議定書で必要な補足情報もこれらに含める | ・全ての国が共通かつ柔軟な方法で削減目標の達成等を報告することを義務付け。専門家レビュー/多国間検討を実施。協定全体の進捗を評価するため、5年ごとに実施状況を確認 |
適応 | ・なし | ・適応の長期目標の設定、各国の適応計画プロセスや行動の実施、適応報告書の提出と定期的更新 |
途上国支援 | ・附属書II国に対して非附属書I国への資金支援を義務付け(条約上の規定) | ・先進国は資金を提供する義務を負う一方、先進国以外の締約国にも自主的な資金の提供を奨励 |
市場メカニズム | ・京都メカニズム(先進国による途上国プロジェクトの支援を通じたクレジットの活用、先進国同士による共同実施、国際排出量取引)を通じて、市場を活用した排出削減対策を促進 | ・我が国提案の二国間オフセット・クレジット制度(JCM)も含めた市場メカニズムを削減目標の達成に活用することを可能に |
京都議定書とパリ協定の比較 出典:環境省 2016年版「環境・循環型社会・生物多様性白書」 |
こうした流れを受け、2015年には国土交通省が、建築物のエネルギー消費量削減を目的とした「建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)」を制定。これにより不動産業者などに「建築物の省エネ性能表示」の努力義務が課されることになりました。
さらに2020年の臨時国会では、菅義偉首相(当時)が「2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す」と宣言。実現に向けた法整備が着実に進められてきました。2025年4月に始まった省エネ基準適合義務化はその取り組みを前進させる大きな一歩といえます。
日本のグリーンビルディング普及率が低い理由
しかし、日本のグリーンビルディング(環境配慮型の建物)の普及率は欧米と比較して依然として低い状況にあります。その理由として、グリーンビルディングに対する一般認知の低さや環境配慮型建築への転換に必要な初期費用の高さなどが挙げられます。
また、日本企業は国が法律を整備してから対応に動く傾向があり、制度による後押しがなけば取り組みが進みづらいという課題も指摘されてきました。
ESG対応が進む欧州では、経済成長と環境対応のバランスについて早くから議論が行われており、政府やEUによる規制整備に先駆けて、多くの企業が自主的なサステナビリティ方針や行動指針を打ち出してきました。こうした企業の動きは政策形成にも影響を与え、自社の方針が制度に反映されることで、既存の対応がそのまま評価につながるケースも少なくありません。結果的に企業はより有利な条件で環境対応を推進することが可能となっています。
日本が2050年にカーボンニュートラルを実現するには、2030年度時点で再生可能エネルギーの割合を36%以上にする必要があるとされています。不動産分野でもCO2排出量削減に向けて、創エネ設備を搭載したZEH(ネット ゼロ エネルギーハウス)やZEB(ネット ゼロ エネルギービル)が推奨されていますが、これらの実現に必要な設備投資は決して小さくありません。
加えて、グリーンビルディングの普及率が低迷している要因の1つに、環境性能認証の存在や価値が十分に広まっていなかった点があります。認証取得のメリットを明確に示すデータが少なく、これまで各事業者は、その有用性を積極的に発信してきませんでした。さらに、需要が少ないため認証取得に対応できる専門人材が育ちにくいという構造的な課題も存在していました。
ただし今後は省エネ基準適合義務の範囲拡大や省エネ性能表示の義務化などにより、環境性能の高い建築物の整備が進む見通しです。初期費用や運営コストの問題についても、対応を急ぐ国や自治体による補助金や支援制度などの充実により、導入のハードルが下がることが期待されています。
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