“使える建設DX”とはBIMを核とする「アプリ連携型」 高砂熱学に実装したArentの提言:メンテナンス・レジリエンスTOKYO2024(3/3 ページ)
Arentは、維持管理でのBIM活用を見据え、BIMモデル作成の自動化/省力化に取り組んでいる。そこで必要となるのが、業務を1つのSaaSで一元管理する業務基盤の「ERP型」から、BIMを“共通言語”として複数のツールと連携させ、全工程でデータを流通させる「アプリ連携型」への転換だ。その実装例としては、高砂熱学工業と共同開発した設計・積算・施工・維持管理に関わる9領域を横断する業務支援プラットフォームがある。
高砂熱学工業との協働によるSaaS統合基盤「PLANETS」
アプリ連携型とBIMを現場に実装した具体例として、鴨林氏はArentと高砂熱学工業が共同開発した業務支援プラットフォーム「PLANETS(プラネッツ)」を紹介した。
PLANETSは、設計・積算・施工・維持管理に関わる9領域──設計自動化、見積支援、原価管理、引合対応、施工図作成、工程管理、進捗管理、品質管理、運用管理──を対象に、それぞれ最適なSaaSを用意し、BIMを中核データベースとして連携させている。まさにアプリ連携型の設計思想の実装例だ。
鴨林氏は「BIMだけでなく、それ以外のデータベースとも接続する構造で、業務データの一元管理とツール間の柔軟な連携を両立している」と解説する。
PLANETSは、高砂熱学工業の業務効率化と情報可視化を目的に導入され、現場ごとのプロセス改善に貢献している。こうした実装例が建設業での“使えるDX”の現実解を示している。
維持管理でのBIM実装意義と、業務視点に立脚したシステム再設計
鴨林氏は維持管理でのBIM活用について、「目指しているのは最適なシステム群とBIMを統合することで、現場での自動化と効率化の実現だ。蓄積されたデータをAIに使えば、より高度な改善も可能になる」と、業務視点に立脚したシステム設計の必要性を強調した。
維持管理では、FM(ファシリティマネジメント)、BM(ビルマネジメント)、PM(プロパティマネジメント)などの業務(業種)が複雑に絡み合っている。そのため、システムに必要な要素を"業務別"に分けて考えるのではなく、必要な「機能群」で整理し直すことで、重複を避け、合理的なシステム構成が可能になるという。
「この業務は本来自動化できる」「この機能が足りない」といった課題に対しては、機能単位で小さく改善を加える。APIで他ツールとの連携、外部サービス導入、簡易ツール内製化といったアプローチが現実的だ。
こうした柔軟な設計思想を持って維持管理フェーズのシステムを構築すれば、将来も必要な箇所だけを拡張かつ最適化が可能になる。BIMを核に業務情報を一元管理し、必要なツールと連携させていく構成は、維持管理業務の合理化だけでなく、建物の省エネ化や資源最適化といった社会的要請にも応える。
業務課題の解決からIT人材の確保へ
講演の締めくくりで鴨林氏は、「明確な業務課題の抽出と、それに基づくプロダクト開発こそが、DXと人材確保の両立につながる」と力強く述べた。
日本企業ではDX人材が慢性的に不足している。人口規模では米国の約3分の1にあたる日本だが、ITベンダーに所属する人材数は両国で大きな差はない。しかし、事業会社に所属するIT人材に限ると、日本は米国の約10分の1にすぎない。
「社内にIT人材を抱えていない。構造的な弱点が日本企業のDX停滞の本質的な要因だ」と鴨林氏は分析する。
ではどうすればいいのか。鴨林氏は、IT人材を引きつけ、定着させるには「目的の明確なプロダクト開発」が不可欠だとする。単に「DXを進めたい」という抽象的なメッセージでは、エンジニアの興味も湧かず、社内に定着することも難しい。「業務課題をこういうツールで解決したい」という具体的なビジョンが、優秀な人材を惹きつける原動力になるという。
その実例が、Arentと千代田化工建設が共同開発した「PlantStream(プラントストリーム)」だ。ベテラン設計者の知見をベースに、配管設計の業務を効率化する社内ツールとして開発されたこの製品は、現在では外販もし、国内外の大手企業に導入される製品へと成長している。
「業務課題を起点にしたプロダクト開発は、単なる効率化にとどまらず、企業に新たな収益機会を生む。そして、それがエンジニアにとってのキャリア資産となり、人材戦略の中核になる」と鴨林氏は提言する。
最後に「Arentは、業務課題の抽出からプロダクト設計、開発、展開までを一貫して支援できる実装パートナーでありたい。単なるシステムインテグレーターではなく、戦略と技術を併せ持った伴走者として、BIMを核としたDXを現場から共創していく」とこれからのビジョンを示した。
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