墨出し自動化ロボをHPが発売 コンクリや合板対応のインク8種搭載:ロボット
日本HPは、建設現場の墨出しを自動化するロボット「HP SitePrint」の販売を開始する。海外では先行導入されており、4人の手作業で2〜3部屋仕上げる間に、ロボットは7〜8部屋の墨出しを完了したという。
米HPと日本HPは2025年5月15日、墨出しロボット「HP SitePrint(エイチピー サイトプリント)」の提供を開始すると発表した。従来の墨出し作業と比べ、最大10倍の生産性を実現する。
2つのセンサーでリアルタイムに障害物を回避
HP SitePrintは、建設現場での墨出し作業を自動化する使いやすいエンドツーエンドのロボティックソリューション。衝突回避と継続的に環境をモニタリングする2種類のセンサーで自律的に動作する。
深度カメラでは、周辺環境の詳細な空間情報を取得し、現場に予期せぬ障害物があってもリアルタイムで避ける。プリントヘッドは床面からあえて19ミリ離して取り付けているため、粗く凹凸のある床面、ほうきで掃いていない床でも自律走行して印刷する。機体は9キロの軽量かつ52.5×31.7×26.1センチのコンパクトな製品設計で、現場ごとに運搬用ケースで持ち運んで使える。
墨出しに用いるインクは、舗装道路=ターマック、粗いコンクリート、合板、型枠などの表面素材と、消えないインクから消せるインクまで異なる耐久性要件に対応し、簡単に交換できる8種を用意。弧状の曲線や円などが入り組んだ複雑なレイアウトも正確に印刷し、線だけでなくテキストも同時に印刷可能で、現場にさまざまな文字情報を伝えられる。最小プリント幅は2ミリ、最大プリント幅は51ミリ、精度の許容誤差は3ミリ。プリント速度は最大で1時間当たり1260メートル。バッテリーはリチウムイオンで稼働時間は4時間。2つのバッテリーを組み合わせれば、日中勤務内は連続運用できる。
精密な墨出し作業はトータルステーションと連携して行い、対応機種はLeica TS16、Leica TS60、Leica iCR80、Leica iCR70、Trimble RTS573、Trimble S9、Topcon LN-150、Topcon GT600/1200。
操作や作業管理はクラウドベースの「HP SitePrint」で完結。墨出し作業全体をどこにいても把握可能で、設計事務所と作業現場間でのCADドキュメントの共有も実現する。
作業の流れは、最初に2DCADファイル、または3Dモデルであればdxfに変換して準備する。図面以外に追加で印刷する情報や作業指示を入力した後、HPプラグインを介してロボット対応のファイルを取得。現場では、手動の墨出し作業と同様に作業現場を空にする。床をほうきで掃く必要はない。
トータルステーションを配置し、プリズムを捕捉した後はタブレットやスマートフォン、ノートPCなどでトータルステーションとHP SitePrintをワイヤレスで接続。CADファイルを開いてプリントエリアを選択し、ジョブを送信。インクを選択すればロボットが自動で墨出しを開始する。
作業後にはHP SitePrintで、全ての関係者と最新のCADファイルを共有可能で、オフィスから進捗状況の確認や作業レポートの管理が行える。
HP SitePrintは、先行して北米、英国/アイルランド、ドイツ、オーストリア、スイス、ベネルクス、北欧、イベリア、オーストラリア/ニュージーランドで、ゼネコンや専門工事業者、地理空間情報サービス事業者など、500以上のプロジェクトで採用されている。
導入企業のLevel 5 Drywallは、HP SitePrintと4人の手作業チームで墨出し作業の速度を比較したところ、手作業チームが2〜3部屋を仕上げる間に、HP SitePrintは7〜8部屋の墨出し作業を終えたという。墨出しの段階で何度かミスをすると、プロジェクトの後工程で壁を撤去することになり、利益が削られるが、HP SitePrintの使用でミスが減り、工期の数週間短縮にもつながった。
製品の販売は、トプコンソキアポジショニングジャパンやニコン・トリンブルの正規パートナーを通じて提供する。
料金は使った分だけ支払う従量課金モデルで、スペシャリストによるリモートとオンサイトのサポート、無制限のインク、修理、ソフトウェアやファームウェアのアップグレードなど、スムーズな運用に欠かせない要素を含む。
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