スマートビルの実験場が大公大の中百舌鳥キャンパスに誕生! 産学で「ビルOS」開発に注力:次世代のスマートビル(2/2 ページ)
大阪公立大学が大阪府堺市中区の「中百舌鳥キャンパス」で建設を進めていたスマートビルの実験棟が2025年4月に供用を開始した。学生や研究者、民間企業などが、産学で次世代スマートビルの社会実装を目指す実験場となる。そのコア技術となるのが、建物内の温度、湿度、CO2濃度などの多様なデータと連動して、建物設備を省エネ制御するビルのOperating Systemとなる「ビルOS」だ。
これからのビルOSの有効性を示す、実証実験を披露
内覧会ではビルOSの有効性検証を目的に、実験棟で空調制御システムを開発するダイキン工業と、大阪公立大学のロボットユースケースの実証実験を披露した。
ダイキン工業は、建物内にある多様な機器をネットワークでビルOSにつなぎ、用途やシーンに応じた最適な空間の創出を構想している。
実験棟ではビルOSを用い、エアコンの換気量最適化や教室の予約情報と連動した制御をテスト。現段階で建物内のCO2濃度のデータと連動し、換気機器の風量をコントロールしており、今後は空調機器の消費電力で30%削減を目標にしている。
教室の予約情報との連動制御にも取り組み、講義スケジュールに合わせたエアコンの自動運転制御や消し忘れ防止で消費電力を削減する。検証では数日分のスケジュールを用意し、ビルOSで空調機器の制御ができるかを調査。次の段階で、講義スケジュールや休講情報の登録といった学務情報システムと連携し、効果測定する。
ロボットユースケースの実証では、エイム・テクノロジーズ製の清掃ロボットと、オカムラ製の配送ロボットを動作させるビルOSのアプリを開発した。建物内の所定の部屋まで自動で移動し、建物設備のエレベーターやセキュリティエリアを結ぶ自動ドアをアプリで開閉できるかを確認している。デモンストレーションでは2種類のロボットが自動で所定の導線を目的地まで移動し、設備機器とも無事に連動できることを証明した。
ロボットと設備を直接つなげるのではなく、ビルOSを間に介してロボットを制御する事例はまだ少ない。阿多氏は「ロボットのスペックに依存せずに、ビルOSとアプリで制御する仕組みで他のロボットにも転用しやすくなるはず」と意図を話す。
民間企業とともに、ビル管理にイノベーションを生み出す施設へ
スマートエネルギー棟は、大阪府堺市中区の中百舌鳥キャンパス内に位置する。施設規模は3階建て延べ床面積2893平方メートル。設計は東畑建築設計事務所、施工は大和リースが担当した。
1階にはオープンイノベーションスペースとして、ワークショップエリアやステージ、カフェエリアを配置し、学内関係者や企業、自治体など多様な人々が気軽に集え、交流や議論ができる空間とした。
2階は共創オープンラボとインキュベーションスペースで、さまざまな分析機器メーカーの最先端機材を陳列し、産学連携による研究を加速するとともに、人財育成にもつなげる。3階はコラボレーション/インキュベーションスペースと位置付け、大学との連携を希望する企業が入居するレンタルラボを設けている。
今後は、今回紹介した事例以外にもスマートビルに関するさまざまな実験に取り組む。大学が培ってきた総合知のリソースと、各企業が持つリソースを組み合わせ、ビル管理の新たなイノベーションが始まろうとしている。
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