BIM/CIMの歴史と本質を学会論文で振り返る【土木×ICTのBack To The Basic Vol.4】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(32)(2/2 ページ)
日本の「BIM元年」となった2009年の「BIM元年」から早16年。現在では設計だけでなく製作や施工、さらに維持管理でのデータ連携が進み、ISO 19650が示すようにBIMのI(属性情報)を建設生産プロセス全体で、どうマネジメントするかが重要となっています。直近では国交省による補助金事業も、2025年度も継続されるなど、国を挙げてBIM/CIMを後押しする動きも本格化しています。そこで今回は、BIM/CIMの歴史を今一度振り返るとともに、土木分野での可能性を解説します。
AIと連携したBIM/CIMの維持管理への適用
鋼橋の設計と製作でも、データ連携による生産性向上が進められています※8。鋼橋の製作では工場で鋼板を切り出し、複数の鋼板を溶接して部材を作っています。鋼材切り出しのための情報や溶接箇所や溶接量を作る工程が原寸システムとなっていますが、3Dモデルや数量情報の属性データ、設計情報の属性データを連携させることで作業の大幅な効率化が期待されています。
維持管理への適用も進められています※9。下図のように点検で得られた画像をAIで分析し、その結果をBIM/CIM上に追加していくことで、状態が視覚的に確認できます。また、構造区分や部材名と連動させ、腐食情報を一元化することで措置判断や補修計画などに貢献するものと考えられます。
※8 「鋼橋の施工および維持管理におけるBIM/CIM活用の取組」細矢征史/AI・データサイエンス論文集5巻4号p39-46/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年
BIM/CIMでは、設計・施工・維持管理など多様なデータが連携することでさらに大きな効果が得られると考えられます。そこで、BIM/CIMを活用したワークフローを実現するためのデータ標準化の取り組みも進められています※10。データモデルとしては、「IFC(Industry Foundation Classes)」の開発が進められており、建築については2013年にIS0 16739:2013、土木は2024年にISO 16739:2024として国際団体のbuildingSMART Internationalによって国際標準の規格となっています※1。また、カーボンニュートラルのためのGHG排出量算定などでも、関連データが多岐にわたることから、BIM/CIMの活用が考えられています※11。
※11 「カーボンニュートラルのためのAI・デジタルツイン」阿部雅人,杉崎光一,全邦釘/Jxiv,JSTプレプリントサーバ/2025年
BIM/CIMというと3次元モデルが思い浮かびますが、データモデルによって属性情報や文書、資料などと関連付けられることで、設計から維持管理までのあらゆるプロセスがデジタル化していくことに本質があると思われます。連載27回で取り上げたデジタルツインの基盤技術としても重要であり、DX推進の大きな原動力に成り得ると期待されます。
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