建設業特有の「従業員エンゲージメント」課題を乗り越えるには 管理職が担う「結節点」の役割:「従業員エンゲージメント」を高め、建設2024年問題を乗り越える(2)(1/2 ページ)
本連載では、リンクアンドモチベーション 組織人事コンサルタントの山本健太氏が、建設2024年問題の解決策として、会社と従業員の間をつなぐ「エンゲージメント」とその向上策について解説していく。今回は、従業員エンゲージメンに関する建設業特有の課題と、その解決に向けたポイントについて紹介する。
「2024年問題」の渦中にある建設業では、「労働時間を削減したいが、業績を落とすわけにはいかない」というジレンマに悩まされている企業は少なくありません。前回の連載第1回では、労働時間を削減することで、単純に業績が下がるか、生産性を向上してこれまで以上の成果を出せるかの分かれ目になる指標の1つが「従業員エンゲージメント」であると解説しました。
今回は、従業員エンゲージメントサーベイの結果から見えてきた建設業特有の課題と、その解決に向けたポイントについてお伝えします。
経営と現場のズレを解消するポイントは「エンゲージメント」
建設業では、時間外労働の上限規制により残業時間の削減が求められています。しかし多くの現場では「重要性は理解しているものの、実行は困難」と感じているのが実情です。本社(経営)から「残業を減らそう」と繰り返し指示されても、実際に現場が残業を減らせば、工期遅延のリスクが高まってしまいます。「そんなの無理だよ……」というのが、多くの現場の本音ではないでしょうか。
これは「経営の方針」と「現場の実態」に乖離(かいり)が生じている状態だと捉えることができます。このズレを放置していると、経営と現場の心理的な距離はどんどん広がっていき、2024年問題への対応どころではなくなってしまいます。
このようなギャップを解消する要素の1つとして、「エンゲージメント」が注目されています。エンゲージメントとは、会社と従業員の相互理解や相思相愛の度合いを表す概念で、建設業でも改善に取り組む企業が増えています。
興味深いのは、エンゲージメントに影響を与える要素が、業界によって異なることです。このため、建設会社がエンゲージメントの改善を図るためには、業界ならではの傾向を踏まえた施策を講じていく必要があります。
データで見る「建設業界のエンゲージメントの傾向」
当社は、従業員エンゲージメント向上サービス「モチベーションクラウド」を提供しています。モチベーションクラウドに蓄積された累計1万1890社、442万人のデータを分析した結果、建設業界のエンゲージメントの傾向として、以下の点が明らかになりました。
(1)ある一定の階層からエンゲージメントが大きく下がる
建設業界でエンゲージメントが高い企業と低い企業を比較したとき、ある一定の階層からエンゲージメントの差が大きくなる傾向が浮かび上がってきました。
具体的に、「部長」「課長」「主任」「一般社員」の階層別に分析すると、全体のエンゲージメントが低い企業では、部長クラスのエンゲージメントは全体よりも高い水準にありました。一方で、課長クラスでは低下し、主任や一般社員といった下位の階層でも低い水準にある傾向が確認されたのです。階層間でのエンゲージメントの差は、組織内に何らかの「断絶」が生まれている可能性を示唆しています。
(2) 「上司/職場」への満足度が低い現場はエンゲージメントが低い
建設業界に見られるもう1つの特徴が、上司や職場に対する満足度が、エンゲージメントに大きな影響を与えていることです。分析結果からは、上司や職場への満足度が高い現場はエンゲージメントが高く、満足度が低い現場はエンゲージメントも低い傾向が顕著でした。
この傾向は、建設業の就労環境と密接に関係していると考えられます。建設業では一般的に、同じ事業所や現場で上司や同僚と長い時間を過ごしています。業務遂行に当たっては従業員間のチームワークや連携が極めて重要ですが、上司との関係に問題があったり、同僚との人間関係が良好でなかったりする状況では、従業員の心理的な負担が増大します。「こんな職場で働きたくない」「他の人たちと働きたい」といった感情が芽生え、エンゲージメントが下がってしまうのも無理はありません。
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