土木設計者の“ワザ”をBIM×AIで次世代につなぐSaaS MalmeがICCのスタートアップ登竜門で優勝:CIM
土木設計をBIM×AIで自動化するSaaS「Structural Engine」を開発したスタートアップ企業のMalmeは、「ICCサミット KYOTO 2024」の「STARTUP CATAPULT」で優勝した。MalmeはStructural Engineで、ベテラン土木設計者の経験則に基づく図面や計算書の作成をBIM×AIで代替し、人手不足や技術継承の課題解決につなげることを目指している。
「土木設計を紙図面から3Dモデルへ。職人技のDXで業界をアップデート」を標ぼうするMalme(マルメ)は、2024年9月に開催した「Industry Co-Creation(ICC)サミット KYOTO 2024」で、スタートアップ企業の登竜門と位置付ける表彰プログラム「Digital Transformation(DX) CATAPULT(カタパルト)」で優勝した。
人手不足の解消やベテラン土木技術者の匠のワザを次世代につなぐITツール
Industry Co-Creationサミットは、「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場としてICCパートナーズが主催するイベント。毎回400人以上が登壇し、総勢1200人以上が参加して真剣に学び合い交流する機会となっている。
DX CATAPULTは第一線で活躍する経営者や幹部、投資家、専門家で構成する審査員に対し、1社あたり7分間で新規事業をプレゼンテーションするプログラム。今回は2024年9月3日に開催し、7社のスタートアップ企業が各7分間プレゼンを繰り広げ、審査員34人の投票で最注目のスタートアップ企業が選出された。
Malmeのプレゼンでは、自社開発した公共インフラの設計を自動化するSaaSツール「Structural Engine」を紹介。代表取締役の高取佑氏はパシフィックコンサルタンツを経て、一度は土木業界を離れたものの、ピンチに陥っている業界を救いたいとの思いで2021年に起業した。ピンチとは高取氏によると「このままでは間もなく日本のインフラが壊れ始める。例えば、供用開始から60年が過ぎる高速道路のメンテナンスには膨大な人と予算が必要になる。建設後50年以上が経過したインフラは道路だけでなく、道路橋55%、港湾43%、下水道16%と、もう耐えられないインフラが日本列島に溢(あふ)れている状況だ」と説明する。
土木技術者を中心に組織しているMalmeの事業としては現在、紙図面の2DをワンデータのBIM化するための技術調査や人材育成を含む、内製化などのトータルサポートを中心に提供している。ユーザーは大林組や清水建設、日本工営など120社に及び、2024年度の売上は5億円を見込む。
Structural Engineを開発した背景としては、インフラ更新が進まない理由の他産業に比べて深刻化する人材不足、慢性的な長時間労働、平均65歳とされるベテラン層の引退と若手の育成不足がある。Malmeは解決には膨大な土木設計の負担を減らすことがカギと見なし、いまだに紙の図面とExcelの計算書でベテランの勘所に頼ってこなしている属人化した設計作業の改善を図るべくStructural Engineをローンチするに至った。
Structural Engineは、ベテランの匠のワザとBIM、AIを掛け合わせ、ベテラン技術者が頭の中で行っていた緻密な設計作業を代替する。若手でもGoogle マップのような3DベースのWebサプリケーションで直感的な土木設計が実現する。さらにWeb上のトランザクションデータを蓄積していくことでAIが学習し、設計のさらなる自動化や効率化も見込める。想定している導入効果は、これまで75日の設計作業が3日に短縮し、400万円のコストが50万円で済むようになるという。
既に有料のβ版を日本工営や日建設計など18社に提供しており、高取氏は今後の展望について「土木市場は2兆円規模といわれるが、その中で紙とExcelのプロセスを効率化することで人手不足と技術継承の解決につなげ、ARR(年間経常収益)100億円のプロダクトにまで成長させたい」と締めくくった。
審査員の講評では、土木業界の危機が身の回りに迫っていることを実感できたこと、職人の専門知になっている部分をAIを活用して集合知にしていくことへの期待感が評価され、投票の結果で34点を獲得して優勝に至った。
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