東急コミュニティー技術研修センター「NOTIA」を舞台としたBIM-FMプラットフォーム構築【BIM×FM第4回】:BIM×FMで本格化する建設生産プロセス変革(4)(3/3 ページ)
本連載では、FMとデジタル情報に軸足を置き、建物/施設の運営や維持管理分野でのデジタル情報の活用について、JFMAの「BIM・FM研究部会」に所属する部会員が交代で執筆していく。今回は、東急コミュニティーで建物管理技術全般の研究/開発に携わってきた筆者が、技術研修センター「NOTIA」を舞台に2度にわたり挑戦したBIMをFM領域で2次活用し、BIM-FMプラットフォームを構築する試みを紹介する。
技術研修センター「NOTIA」でBIM-FMプラットフォーム構築へ
この年、グループ企業の東急建設、東急リニューアルと当社の間で「BIM勉強会」がスタートし、筆者も参画することとなった。幾度かの勉強会の後、当社と東急建設がスピンアウトする形で「BIM共同研究事業」を立ち上げた。その流れでBIM-FMプラットフォームを実際に構築してみようという話に発展した。
舞台をNOTIAに設定し、テーマをBIMプラットフォームの研究と構築とし、国土交通省の「令和4(2022)年度 BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(以降、BIMモデル事業)」に参加申請し、実物件のNOTIAにBIMを活用したプラットフォームを構築し、その効果検証を行った。BIMの広範なメリットや課題について自由に検証したいため、申請区分はパートナー事業型を選択した。もともと、NOTIAの竣工BIMはGraphisoftの「ArchiCAD」(建築)とNYKシステムズの「Rebro」(設備)で作成されていたが、今回はBIMの組成から維持管理・運用段階での活用までを検証するため、竣工図情報を基にRevitによるBIMモデルを新たに用意した。
BIMは諸外国では、設計・施工管理、積算資料、機器リスト、図面確認などで活用されているが、筆者は建物管理者のため、BIMの3D形状や属性情報を用いて実際の維持管理・運営業務で実活用することを標榜(ひょうぼう)した。
他方、2019年NOTIA竣工時に感じたBIMの課題は、スピード感を含む画面の操作性、リアルタイム監視の可否にあると感じていた。そのため、使用するインフラ、コンピューティングにはプロジェクト計画時よりも配慮し、BIMモデルの操作性を向上させるため、データ容量の重たいBIMの国際的なファイル形式IFC(Industry Foundation Classes)を、ゲームエンジンなどで活用されるFBX(FilmBoX)にファイル変換して使用した。また、BIMと連携するプラットフォームには、建物内の計測機器で用いる通信プロトコル「BACnet」を利用して建物のリアルタイム監視を可能にした。
検証は、1から6のパートに分かれ、検証1ではBIMモデルの構築、検証2ではLOD(BIMモデルの詳細度:Level Of Detail/Level Of Development)、LOI(属性情報の詳細度:Level Of Information)など、BIMの入力レベルを検討した。なお、併せてプロジェクト計画書となるEIR(発注者情報要件)やBEP(BIM実行計画)も作成。
検証3では、BIM-FMプラットフォームの構築を進め、NOTIA館内のシステムインフラ構築では、筆者とシステムベンダーが設計した。また、館外からクラウドに渡るシステムインフラの設計は東急建設が受け持った。
検証4では、維持管理・運用段階におけるBIM活用を自由に検討し、BIM-FMプラットフォームが「コミュニケーションツール」として使えるか否かを検証した。建物管理者である筆者としては、もっと自由に建物所有者や建物利用者と建物に関する意見交換を行いたかったため、1階のデジタルサイネージをBIM-FMプラットフォームと連携させ、NOTIAの一般来館者と会話できる機能を持たせた。
検証5は、BIM-FMプラットフォームを活用して、実際の維持管理・運営業務の作業工数をどれだけ削減できるのかを確認した。緊急対応、修繕業務、検針業務の3項目でシナリオを作成し、中央監視装置からの情報取得もしくはシステムが無い場合と、BIM-FMプラットフォームを活用した場合の作業比較を行い、その効果を検証した。
検証6では、室内の温熱環境を立体的に計測/分析することにより、室内環境の改善につなげることができるかを検証した。現状ではデータ移送の工数削減のみを算定できたが、今後はさらなる分析/提案のフェーズで検証を進めたいと考えている。
筆者が深く関与する検証4について検証結果の所見を述べると、BIMの操作には操作者のITリテラシーが関係することが判明。さらにキーボード入力は情報の送信者、受信者ともにストレスを生むため、入力方法に改善の余地があることも分かった。
検証5での維持管理・運用段階の工数低減は、総加重平均で58.4%の低減効果があった。また、当初想定していなかった作業の個人差(作業偏差率)に5.9〜18.9%の作業改善(工数低減)の跡がみられた。これは、BIM-FMプラットフォームの利用で、作業品質の標準化がなされたことを意味する。こうした数値は、建物管理者としては大変喜ばしい導入効果となった。
「未来の建物管理像」に向けた今後の課題
日本の労働人口は年々減少しているが、“労働集約型産業”の建物管理業でも人材の採用難という形でその影響が及んでいる。そのため、省人化、業務効率化、要員配置の見直しなどは、当社でも喫緊の課題である。
今回のBIM共同研究事業では、BIMの在り方を設計・施工から、維持管理・運用にかけて問う広範なテーマで臨んだが、当社喫緊の課題となっている省人化、業務効率化への対策項目という観点からも検討を進めている。現状のBIM-FMプラットフォームは実験環境、プロトタイプのため、より汎用化できるようにシステムをブラッシュアップしなければならない。検証作業についても、検証4、5の試行回数を増やすことにより、省人化の具体数値を算定すること、検証6の分析/提案は検証を継続していくことが肝要だ。
また、今回BIM-FMプラットフォームを設計するに当たり、接続するシステムの自由度を高めるためオープンインタフェースの考えを取り入れた。将来は、建物管理業における業務区分(FM、PM、BM、CMなど)に関係なく、建物所有者や一般利用者も巻き込んだ幅広い利用のできるシステムの構築を検討していくべきだろう。
昨今、日本では「Society5.0」「i-construction」などの計画でデジタル施策を推進しているが、建物管理業でも同様で、センサー、ソフトウェア、インターネット、監視コントローラーなどを活用して、「未来の建物管理像」を確立すべきタイミングを迎えている。今回のBIMやBIM-FMのプラットフォーム実証実験が、こうしたデジタル施策に対して一定の効果を生み、建物管理業そのものが労働集約型産業からの脱却を図れる一助となることを筆者は望んでいる。
著者Profile
田邉 邦夫/Kunio Tanabe
照明技術者を経て、1992年東急コミュニティー ビル部入社。2009年まで物件責任者などを担当。2010年本社へ異動し、新たな技術部署を立ち上げる。2017年から建物管理技術全般に関する新技術や新事業の研究/開発に従事する。
東急コミュニティー技術研修センター「NOTIA」の建設で、2017年から施主側の立場で設計定例会議に参加する。同年BIM研究のため日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)の「BIM-FM研究部会」に入会。2022年に東急建設との「BIM共同研究」、国土交通省「令和4年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」に参画。同プロジェクトではBIMの組成から維持管理・運用段階までの活用検討、検証、施策立案などを行っている。
建築物環境衛生管理技術者、第一種電気工事士、消防設備士甲種4類。
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