住宅市場の急変で大和ハウスが方針転換 セミオーダー強化や体制変革で2027年度に1万棟販売:産業動向(2/2 ページ)
ここ数年、建設費の高騰や実質賃金の低下などを理由に、消費者の住宅購入意欲が低下している。大和ハウス工業はこうした背景を受け、戸建住宅事業の方針転換を図る。3階建て以上の高額商品や海外注力から、国内での分譲住宅の体制強化とセミオーダーや規格といったコストを抑えた注文住宅にシフトチェンジし、2027年度に年間販売棟数で1万棟を目指す。2024年問題や東京都の太陽光発電設置の義務化などの課題に対しても、これからの住宅市場に適合した組織づくりで対応していく。
「まちなみ設計」で分譲設計を一元化、施工は大和ランテックが担当
分譲住宅7000棟の実現には、今までビルダーを検討していた消費者にも大和ハウス工業の商品を積極提案する。良質でリーズナブルな住宅を全国に展開し、土地探しからサポートもしていく。
社内体制では、分譲設計に特化した事業所に配置している設計者を「まちなみ設計」として本社所属とし、事業所ごとにバラツキのある分譲企画を一元化する。建設(施工)は、グループの大和ランテックが西日本エリアで2023年10月からまとめて担当し、2024年4月に関東や東北、2024年7月に中部や関西へと担当エリアを広げて、品質と生産性を確保し、社員1人あたりの生産性を上げることで販売台数の増加にまでつなげる。
また、デジタル技術を活用した販売戦略も始まっている。大和ハウスベンチャーズを通じたスペースリーへの出資で、VRを活用した分譲住宅のヴァーチャル内見で提案力の底上げする。VR空間では、CGで家具の配置イメージを住宅購入者と事前に共有できるため、イメージの食い違いによるトラブルも防げる利点がある。
カービンニュートラルでも、2013年10月から兵庫県姫路市で第一弾となる4棟が着工した木造分譲商品「Comfort Wood」を各支店でも販売していく。ZEH、耐震等級3、構造と防水の初期保証30年を有し、他のビルダーよりも競争優位性を持ち、2024年9月には同年4月に比べ3.3倍もの受注増が見込まれている。
社会課題の解決と幅広いニーズに応えられる社内体制の構築へ
大和ハウス工業では、こうした目標の実現とともに社会課題への対応も急務とし、社内改革にも着手している。改正労働基準法による“建設2024年問題”では、社員一人当たりの生産性向上が重要とみている。そのため、営業や設計、工場、物流、工事の各工程の働き方改革に取り組み、営業ではプラン提案力の向上やPCなどの性能向上とともに、分譲住宅の販売拡大に向けてマーケティング力の強化や人気プランの展開に注力。設計では、人気プランの規格やセミオーダープランを拡充した。工事でも分譲と請負を切り離して効率化し、全体で残業時間を約31%削減した。
環境配慮では、住宅メーカーとして環境にやさしい戸建て住宅も促進している。2023年度の戸建て住宅のエネルギー収支をゼロ以下にする「ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)」率は全体で97%(分譲住宅は100%)、太陽光発電の搭載率も96%に達した。2025年4月から、義務化される東京都の太陽光発電設置義務化にも100%対応できる見通しを示す。
共働き世帯の増加や女性の社会進出を促進する住宅のアイデアも実践している。一例として、帰宅してからリビングに入るまでに、カバンや上着を自然に片付けるように住宅の動線を設計した「家事シェアハウス」を請負物件で積極的に提案している。
他にも着工後に、工事担当者が住宅の建設現場を写真付きでメールを送る頻度を増やし、顧客満足度を上げるサービス改善も進めている。
こうした環境配慮やサービスなど住宅の付加価値については、モノづくりの生産性を高めてコストを抑え、より多くの消費者に良質な住宅を提供する「良いものをお値打ちに」、着工後も家づくりを楽しんでもらえる「家づくりを楽しんでいただく」の2つの住宅販売の事業方針に基づく施策で、大和ハウス工業の住宅ブランドを高め、2027年度の販売棟数1万棟の達成にも貢献するとしている。
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